はじめに
ペットの医療費が高いと感じている飼い主は多い。「なぜ私はこんなにも動物病院に通い続けているんだ。」そうした本音を、ほとんどの飼い主は口に出せずにいる。
農林水産省のデータによれば、ペットを診る動物病院(小動物診療施設)の数は、2004年から2024年の20年間で約39%の増加。
しかし、その裏で犬の飼育頭数は減少し、小型化も進んでいる。
「お客さん」であるペットが減っているのに、「お店」である動物病院が増えるのは、普通に考えると理解しがたい。
その歪んだ構造を何とか維持してきたのが、飼い主ひとりひとりが支払う高額な医療費である。我々飼い主は、「なんでも医療任せにする」癖が付いてしまっている。
15年間・1万件のペット健康相談を通じて見えてきたのは、正しいセルフケアの知識を持つ飼い主ほど、医療費が抑えられているという現実です。
というか、お金は二の次。一番伝えたいのは、正しいセルフケアは病気を防ぎ、治癒期間の短縮に役立つということです。笑顔が増えるということです。
誰も悪くないが、病気が減らない|負のスパイラルの正体
あまりきつく言うと角が立つので、マイルド気味でまいります。
犬の飼育頭数の減少と動物病院の増加は、負のスパイラルになっている。医療費が上がればペットを飼える人が減ります。ペットはどんどん高嶺の花になります。こうして頭数がさらに減れば、医療費は上がる。お金がかかるからさらにペットが飼いにくくなる。
誰を責めたいとかではありません。誰にでも事情はあります。ただ、医療構造の限界に来ているだけです。
飼い主が正しい知識を持ち、ペットの健康管理を出来るようになれば、この構造から抜け出すことができます。良い意味で「もっと気軽にペットを飼える。」
ペットが増えれば、動物病院の焦りも無くなります。誰もがわかっている通り、ペットから搾り取るのはダメです。負のスパイラルを生むだけです。
飼い主を守るルールがある|でも飼い主はそれを放棄している
インフォームド・コンセントというものがある。これは本来、望まない治療から飼い主を守るためのルール。治療を断る当然の権利です。
しかしこの権利を実際に行使できている飼い主は少ない。背景にあるのは「獣医師がすべての責任を引き受けてくれる」という幻想です。その幻想が、飼い主を受け身にさせている。
愛犬の異変に動揺した状態では、人は情報を正確に処理できない。限られた診察時間の中で説明がなされ、同意が取られる。重大な副作用リスクがある薬剤でも、「食欲が落ちたら連絡してください」の一言で、飼い主が同意してしまうことは多々あります。
これでは、「用意された安全システムを自らオフにしている」ようなものだ。
安易な同意は、望まない形になって返ってくる。効果が出ない、副作用が出る。不満は募るが、同意した以上、責任の所在は曖昧になる。
知識を持った飼い主は、診察室で聞くべき質問が変わります。「怖いですけど教えてください。危ない副作用にはどんなものがありますか?」
これは勇気でもなんでもありません。ペットを守る権利の行使です。
あなたに治せる病気がある|生活習慣と病気の因果関係
現代のペットに多い病気の多くは、生活習慣に起因している。つまり原因があって、病気が発生する。この因果関係を正確に把握すれば、セルフケアで対応できるケースは少なくない。
でもこれを「運が悪い」「生まれつき」としてしまうと、原因の対処が出来ない。
生活習慣の改善で病気が予防・改善されれば、飼い主は嬉しい。でもいまのままの医療サービスは維持できない。生まれ変わる必要があるし、やるしかない。なぜならばWin-Winにするべきだから。
原因を探ることが、最も本質的なセルフケアだ。原因ではなく症状を抑えるのが動物病院の仕事だ。それぞれ得意なことが違う。気がついた飼い主だけが、見えてくるものが変わります。
静かに増える、見えない病気|医原病という視点
医原病とは、医療行為そのものが引き起こす病気や症状のことだ。現代では薬が原因となりやすい。
死亡例のある薬剤は、意外に多い。しかし与えている薬に死亡例があるかどうか、ほとんどの飼い主は知らない。また報告例は「氷山」と同じ構造だと指摘する声もある。安全そうに見える薬も、常にリスクがある。
味噌汁を与えると病気になるという声はよく聞くが、薬で病気になるという声は少ない。実際には逆で、ハイリスクなのはどう考えても薬である。
こうした誤った世論の中で、医原病は軽視され、気付かない。
薬で生じた問題を、別の薬で治療するのは基本的におかしい。問題が生じたときには止める、もしくは減薬して様子を見るのが大原則である。「このくらいなら」や、「先生を信頼しているから」ではなく、自分の観察力をもっと大切にしてください。
人を信じて疑わないのは誠実さのあらわれであり、日本人的な美しすら感じます。しかし薬に関してだけは、自分で徹底的に調べて欲しい。メリットとデメリットを比較して納得した上で判断する。
専門家にそれを委託するのも構わない。その場合は、命綱であるインフォームド・コンセントを最大限に活用して欲しい。
おわりに
どれも悪意から生まれた問題ではない。しかし「壊れかかった構造にいつまでも寄りかかっていること」が、健康問題、医療費問題、不安と悩み、そして不信感の根底にある。
医療はサービスであり、こちらがお金を払って利用するもの、結局はこちらに主導権があります。そして相手が一流であっても、ペットの性格、あなたとの特別な絆、そこで生まれた愛の形の完全理解を求めるのは酷です。
飼い主の多くは、その子の体の仕組みに沿った、できるだけ負担の少ないやり方を本心で求めている。その気持ちに、私は完全に同意します。
セルフケアがすべてとは言いません。医療も大切です。ですがその距離感はもっと大切だということをお伝えしたくて記事にしました。
ペットの多い国は幸福度も高くなる。飼い主にとっても、動物病院にとっても、良い方法がある。そしてあなたのペットを全力でサポートすることは、私にとっても大きな意味があります。