【糖質制限】「がんが治る」という危険な罠

栄養の本音

1. はじめに:がんは糖で兵糧攻めできるのか?

「愛犬ががんと診断された。ネットを見たら、がんは糖分をエサにして増殖するから、糖質制限で治ると書いてあった」

「だから、芋や穀物をすべてやめ、お肉たっぷりの高タンパク食に切り替えた」

ペット健康相談を受けていると、こうした飼い主さんによく出会います。藁にもすがる思いで、愛するわが子のために選んだ道。その深い愛情は痛いほど分かります。

ですが、ここで一度立ち止まり、冷静に考えてみてください。

「本当に糖質を抜けば、がんは消えるのでしょうか?」

「糖質をゼロにして困るのは、本当にがん細胞だけでしょうか?」

はっきりとお伝えします。 「糖質制限でがんが治る」という科学的な事実は、人間においても、犬においてもほぼ存在しません。

むしろ私の相談対応の経験から言えば、極端な糖質制限によって体力を奪われ、やつれてしまい、がんと闘えなくなるケース。つまり逆効果に終わる光景を見ています。

なぜ、そんなことが起きてしまうのか。 答えは簡単で、本当の危険性が隠されているから。

ここからは、ネットや一部の指導では教えてくれない「糖質制限に隠されたリスク」を、身体の仕組みと「科学の目」から分かりやすく紐解いていきます。

 

2. 「科学の目」が明かす、糖質制限による体内リスク

がんはブドウ糖を好む。ここまでは事実です。 しかし、「だから口から入る糖をゼロにすればいい」と考えるのは、身体の仕組みから見ると少し無理があります。

極端な糖質制限を続けたとき、体内では一体何が起きているのか。生体内で起きるリスクを順を追って見ていきましょう。

 

リスク① がんより先に筋肉が削られる ➔ 【糖新生と悪液質】

食事から糖質が入ってこなくなっても、血液中の糖分(血糖値)がゼロになることはありません。血糖値がゼロになれば脳が働かず、命に関わるからです。

では、体はどうやって血糖値を保つのか? 「自分の筋肉を分解して、アミノ酸から糖を作り出す」のです。これこそが生化学でいう「糖新生(とうしんせい)」。

ここに最初の矛盾が生じます。 口から糖を抜いても、体内で糖が作られ、血中には糖が供給され続けます。がん細胞はその糖を取り込んで生き延びる。兵糧攻めに遭って先に削られるのは、がん細胞ではなく「わが子の筋肉と体力」という皮肉な現実。 がんで最も警戒すべきは、全身の骨格筋や脂肪が減っていく衰弱状態「悪液質(カヘキシア)」。糖質制限は、この衰弱を進めてしまう要因になり得ます。

 

リスク② 高タンパク食による負荷 ➔ 【アンモニアの増加と肝機能の低下】

糖質を抜くと、カロリーを補うために食事はお肉中心の「高タンパク食」へと傾きます。さらに、自分の筋肉を削って糖を作る糖新生も同時に働きます。

アミノ酸をエネルギーや糖に変える際、体内で発生するのが「アンモニア」。アンモニアを無毒な尿素に変換するルートが、肝臓の「尿素回路」です。食事から入るタンパク質と、分解された筋肉から出るアンモニア。その処理のため、肝臓の解毒機能は酷使されます。

内外の肉をカロリー源とする場合、肝臓のエネルギーが増加するアンモニア処理に奪われる。すると本来の機能である「抗酸化物質の合成」「ビタミンの活性化」「ホルモンの代謝」などに手が回りにくくなる。

そして、臨床現場におけるジレンマ。 「抗がん剤や麻酔薬を解毒・代謝するのも肝臓の仕事である」という事実です。アンモニア処理で肝機能が疲弊した状態では、薬の代謝が落ち、抗がん剤による副作用リスクが高まりやすくなります。場合によっては、肝機能の悪化によって「抗がん剤の見合わせ」や「麻酔リスクによる手術の回避」といった事態になり、標準治療の選択肢を狭めることにもなりかねません。

 

リスク③ アンモニアによる刺激 ➔ 【酸化ストレスと慢性炎症】

肝臓で処理しきれずに血中に残ったアンモニアは、血管や周辺組織を刺激し、活性酸素(酸化ストレス)や「慢性炎症」の引き金になります。

これこそが生理学的な皮肉。 「がん細胞が好む体内環境のひとつが、慢性炎症である」という点です。 がんにエサを与えないつもりで行った糖質制限が、アンモニアの産生を増やし、結果としてがんの進行に都合のよい炎症環境を作ってしまう。まさに本末転倒と言えます。

 

リスク④ 腎臓の負担 ➔ 【老廃物の排泄障害と治療の選択肢低下】

肝臓でアンモニアを尿素に変えた後、その老廃物を血液から濾過して尿へ排泄するのが「腎臓」です。

糖質を抜いて筋肉を分解させ、高タンパクな食事を続けることは、腎臓のフィルター(糸球体)に持続的な負荷(過剰濾過)をかけることにつながります。体力を保つはずが、腎機能の低下を招いてしまう。

腎臓もまた、多くの薬剤や代謝産物を体外へ排泄する要の臓器です。腎機能が落ちれば抗がん剤が体内に残りやすくなり、副作用が出やすくなります。検査数値の悪化によって投薬の減量や治療の中断を余儀なくされる可能性もあります。

 

リスク⑤ 免疫細胞のエネルギー不足 ➔ 【細胞性免疫の低下】

「がん細胞がブドウ糖を使うから糖を抜く」という考え方の盲点。それは、「がん細胞を監視・攻撃している免疫細胞(T細胞やNK細胞など)もまた、働くためのエネルギー源としてブドウ糖を消費している」という点です。

異物を排除する免疫システムは、糖をエネルギー源として利用する仕様。その供給を減らせば、免疫細胞本来の働きも鈍くなります。がんにエサをやらないつもりが、身体を守る防衛部隊のエネルギーまで奪ってしまう矛盾です。

 

リスク⑥ 善玉菌のエサ不足 ➔ 【腸内環境の悪化】

糖質制限を徹底しようとすると、必然的に炭水化物全般(穀物類、芋類、根菜類など)を控えることになります。しかし、炭水化物に含まれる難消化性デンプンや食物繊維は、腸内に生息する「善玉菌」の大切なエサ。

炭水化物が不足した腸内では善玉菌が減り、代わりにタンパク質を好む悪玉菌が優位になりやすくなります。悪玉菌は腸内でアンモニアや有害物質を作り出し、腸内環境を乱します。 免疫細胞の多くは腸に集まっています。腸内環境の乱れは、全身の免疫バランスを崩すきっかけになり得ます。

 

リスク⑦ 動物性タンパク質偏重 ➔ 【発がんシグナルの刺激】

糖質を抜けば、カロリーを維持するためにお肉(動物性タンパク質)の割合が高くなります。 人間の研究においても、赤肉や加工肉の過剰摂取は発がんリスクと関連することが知られています。

腸内に届いた未消化の動物性タンパク質は、悪玉菌によって分解され、アンモニアを始めとした好ましくない代謝物を生み出します。さらに、過剰なタンパク質摂取は体内の成長因子(IGF-1)を刺激し、これが細胞分裂を促すシグナルとして、がん細胞の増殖にも関わってしまうという側面があります。

 

リスク⑧ リサイクル機能の低下 ➔ 【オートファジーの抑制】

生体には、古くなったタンパク質を自ら分解して再利用する「オートファジー(自食作用)」という仕組みが備わっています。 細胞内のゴミを掃除し、健やかな状態を保つための基本的な機能。

しかし、過剰なタンパク質やアミノ酸が常に体内に入ってくると、細胞内のセンサー(mTOR)が反応し、オートファジーの働きが抑えられてしまいます。 細胞内のリサイクルや掃除が進みにくくなり、老廃物が蓄積しやすい環境を作ってしまいます。

 

リスク⑨ 食事の楽しみの喪失 ➔ 【ストレスホルモンによる免疫抑制】

日々の健康相談の中で強く感じるのは、「心の状態が自律神経や免疫に直結している」という事実です。

好きだったごはんやお芋を取り上げられ、パサパサしたお肉ばかりを強いられる日々。家族がおいしそうに食事をしている横で、自分だけ制限食を与えられる違和感。 言葉を話せない犬や猫も、食事の楽しさや匂いにとても敏感です。食事の喜びが奪われることによるストレスは計り知れません。

ここにも生理学的なジレンマがあります。 強い精神的ストレスを受けると、体内ではコルチゾールなどの「ストレスホルモン」が過剰に分泌されます。このホルモンには強力な「免疫抑制作用」があり、本来がんと闘うはずの免疫システムを内側から眠らせてしまうのです。

がんに勝つためにと始めた食事制限が、強いストレスを生み、そのストレスが自らの手で免疫の武器を奪ってしまう皮肉。 「おいしい」「うれしい」と食べる幸福感。それこそが副交感神経を優位にし、身体が持つ治癒力と免疫力を支える確かな土台になります。

 

3. 私(岡田)が考える炭水化物と糖質の真実

上記は岡田の考えではありますが、身体の仕組みから見ても科学的にかなり整合します。そのうえで、私の意見を唯一の正解だとは思わないでください。私自身、日々の相談記録を見つめ直しながら「何がこの子にとって本当に良いのだろうか」と自問自答を続けています。

砂糖のような純粋な糖分を直接的に与えることには、私も賛成できません。私が問題視しているのは、「糖質制限」を掲げるあまり、芋や穀物といった炭水化物全般を過剰に排除し、結果として極端な高タンパク食へ傾いてしまうことです。

もしここまでの話が少し難しく感じたなら、こんなふうに考えてみてください。

まず前提として、犬の内臓は人とそっくりです。数も位置も仕組みも役割も、体内を巡る血液までほとんど同じです。消化の仕組みも腸内環境も、さらには動物病院で使われる薬や点滴まで人と共通しています。「人と犬の身体はまるで別物だ」という話のほうが、身体の仕組みから見れば矛盾だらけなのです。

この前提に立って、少し想像してみてください。

1日3回、焼肉だけを食べる食生活。完全な糖質制限です。 これでがんが防げそうでしょうか?

飽きるならステーキや生ハムも選び放題としますが、どうでしょう。 もちろん、タレやソースは糖分が入っているので一切禁止です。 ごはんもパンも、蕎麦もうどんもラーメンも禁止。根菜もフルーツも、ドレッシングすら口にしてはいけません。

……何か強い違和感を覚えませんか? その違和感こそが、生物としての正常な感覚です。

昔の日本食は、食物繊維がたっぷりで炭水化物が中心でした。当時の日本は世界から「がんを抑える理想的な食文化」と評価され、今より遥かにがんの少ない国だったのです。

今は食生活が西洋化し、人と同様に犬のがんも急増しました。 医師も薬剤師も、獣医師も栄養士だって普通にがんに罹患する現代です。

つい15年前に騒がれ始めた糖質制限。根拠は少なく、リスクはたっぷり。

体重が減る?当たり前です。便秘、体臭がきつくなる?そりゃそうです。これらは身体の異常を知らせるSOS信号。見逃してはいけません。

誰かの極端な極論や流行りの言葉ではなく、私たちは身体の仕組みという「科学の目」で、真実を静かに見つめ直していきましょう。私は忖度しません。サポートは本気です。

テキストのコピーはできません。