これまで『高タンパク食』や『尿量不足』といった、物質的な要因がどのように腎臓の限界を超えさせるのかをお話ししてきました。今回は、腎臓の寿命を左右するもう一つの巨大な要因、「ストレス管理の失敗」についてお話しします。
「ストレスは万病の元」とよく言われますが、これは単なる精神論ではありません。目に見えないストレスが、いかにして「物理的」に腎臓を破壊していくのか。
現代医療が軽視しがちなこの重要なメンタル要素を、少し専門的な自然科学の話も交えながら解説していきます。理解してしまえば、ペットの腎臓ケアの精度が数段階高まります。
ストレスが腎臓を破壊するメカニズム
動物が不安や強いストレスを感じたとき、体は「敵と戦うか、逃げるか」という極度の緊張状態(交感神経の優位)になります。この時、体内で何が起きているのでしょう。
交感神経の過緊張と血流低下
身体はストレスを感じると、交感神経が優位になります。
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血管の収縮: 交感神経は全身の血管を収縮させます。腎臓の「糸球体(しきゅうたい)」という毛細血管も同様です。
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酸素不足: 血管が縮まると、腎臓への血流量が減ります。酸素が不足気味でも腎臓は仕事を続けなくてはならず、徐々にダメージが蓄積していきます。
もうちょっと詳しく書いておきます。動物病院からもらう腎臓治療薬と関わりもある知識です。
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化
腎臓はホルモンを分泌し、血圧を調節する臓器です。ストレス環境下での血流低下に腎臓が反応してしまいます。
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レニン分泌: 腎臓から血中に放出される。アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変える。
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ACE: 主に肺にある酵素(ACE)。アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する。
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アンジオテンシンII: 強力な血管収縮を持つ。さらに副腎皮質からのアルドステロン分泌を促す。
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アルドステロン: 腎臓の遠位尿細管などに働きかけ、ナトリウム(塩分)と水の再吸収を促進する。
この仕組みは、出血などの緊急時に血圧を維持します。ですがストレスによる慢性的な血流低下が、腎臓を誤認させてしまいます。
腎臓は自分と身体を守ろうとしているわけですが、その代償として腎臓は異常な高圧に晒され、フィルター(糸球体)が破壊されていきます。
専門的な話をしましたが、わかりやすく言うと「庭に水を撒くとき、ホースの先を指で強くつまんで、無理やり高い水圧をかけている状態」です。これを24時間休まずに続けているうちに、デリケートな毛細血管からなる腎臓が壊れていくイメージです。
精神ストレスと酸化ストレス
次に、ホルモンを介さない話です。こちらのほうがわかりやすいでしょう。 「ストレス」という目に見えない攻撃は、腎臓の敵「酸化ストレス」となり、活性酸素という形で組織を破壊していきます。
腎臓のフィルター機能は、私たちが日常で目にするような「ふるい」や金属フィルターとはかなり異なります。目に見えない分子を選択するバイオテクノロジーの集合体のような機能です。繊細かつデリケートであり、しかも肝臓と違い再生がききません。 活性酸素は、この精密なバイオテクノロジーの工場に「強烈なサビ」を発生させ、細胞の機能を根底から壊してしまうのです。
飼い主が勘違いしている「本当のストレス①」
さて、ストレスが腎臓に悪い理由がわかったところで、実際にペットたちがどんなことに対してストレスを感じているを知りましょう。多くの方が勘違いしてるところです。
私はよく飼い主さんに質問します。「ペットの最大のストレスは何ですか?」
するとこんな答えが多いですね。90%くらいでしょうか。
「お留守番が長いこと」「あまり散歩にいけないこと」「同居犬(猫)との相性」「おもちゃを買ってあげないこと」
どれも違います。断言します。本気で犬猫になった気持ちで考えてみてください。
彼らの本当のストレスは「食事」です。もう少し言えば、人間との食事のギャップ。家族と言われながら耐え続けてきた差別感です。
(この話は、腎臓のみならず健康長寿の全般に関わってきますので、別記事でがっちりお話しします)
飼い主が勘違いしている「本当のストレス②」
こちらも別記事で話しますが、触りだけ。
食事に次いで、もしくはそれ以上に重要なのは、「飼い主の不安」がペットのストレスになるという話です。
私たちが不安を感じ、ストレスを覚えるとき、彼らはそのネガティブな感情を察しています。私たちの体臭や呼気の匂いによってです。
彼らの嗅覚は凄まじく、かつ本能的に利他の心を持っています。飼い主の心に同調し、彼ら自身がストレスを感じます。
ここから先は、この強烈なストレスから愛犬・愛猫の腎臓を守るための、今日からできる「解決策」についてお話しします。
解決策の提示「エンターテイナーを演じる」
ペットの腎臓を長持ちさせ、健康長寿を叶えるため、提案します。今日から「エンターテイナー」になってみてください。
性格を変える必要はありません。ポイントで演じるだけです。
たとえば食事を出すときは、高級レストランのシェフのように自信たっぷりでお願いします。不安そうな顔で持っていくと、それだけで味が落ちます。
ときどき歌うのもありです。もちろん踊り付きなら効果倍増です。彼らが目を丸くしてくれたらオッケーです。なので常時やらないほうが良いでしょう。
逆に静かな曲を流しておくのも良いです。目的は驚かすことではなく、彼らのストレスを吹き飛ばすことですので、リラックス環境を作り出すことも有効です。
ストレス解消の特効薬は「笑い」です。
笑うというのは人間の特権のように思われていますが、ペットの中にも似たような感情は存在します。笑いの科学はまた難しい話ですけれど、基本的にはギャップによって生じる「安心の中での驚き」です。
そして、この「安心」こそが、前半でお話しした交感神経の過緊張を解き、「副交感神経」を優位にさせます。収縮して首を絞められていた腎臓の毛細血管がフワッと広がり、血流が回復していくのです。
「笑い」は単なるご機嫌取りではなく、極めて合理的な血流回復のセルフケアだという結論です。
先程は挙げませんでしたが、ペットによっては通院や入院が、短期的で強烈なストレスとなりえます。家に帰ってきて、飼い主は不安をあらわにしてはいけません。とりあえず曲に合わせて一緒に踊りましょう。
ふざけた提案だと思うでしょうが、ちょっとだけやってみてください。ご愛犬ご愛猫の表情が変わるか見てみてください。それよりも先に、あなたの中で何かが変わるかもしれません。
食事のギャップを埋める
あと食事の差別感の解消なのですが、もしご家族が「納豆」好きでしたら、ちょっと与えてみてくれないでしょうか。
ちなみに身体には「脳腸相関」という仕組みもあり、腸内環境とメンタルはダイレクトにリンクしています。腸内環境改善効果の高さは腎臓保護に繋がり、しかも家族と同じものを食べるという食事ギャップを埋めてストレス解消にもなる、私が一番お勧めしているトッピングです。
体重5kgなら1日5g、体重10kgなら1日10gくらいが目安です。豆納豆よりひきわり納豆が良いです。成分が違い、性能も変わると考えています。
なお乾燥納豆はあまり効果を実感できません。
「人の食事を与えると病気になる」という常識があるようですが、端的に言えば暴論です。世界最高齢記録を持つ犬は残飯食ですからね。猫はワインを飲んでましたよ。
理屈を突き詰めればキリがありませんが、まずは一ヶ月試してみてください。歌うも踊るも納豆も、安全な取り組みです。ちょっと恥ずかしいくらいで、損はありません。
ここで全部話すと本当にきりがないので、とりあえず締めます。
今日お伝えしたかったのは、「あなたの笑顔と頼もしさこそが、ペットの腎臓を守ります」ということです。
ではまた、これからも一緒に楽しく学んでいきましょう!