死因のトップは、血栓症かもしれません。
大げさに聞こえますか?でも私はそう思っています。脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓。これらはすべて血栓症です。これらは比較的、診断名がつきやすいのですが、問題は診断名すらつかないまま終わるケースです。
コロナ禍、私の身内5人のうち2人が、ほぼ同時期に血栓症と思われる事態に陥りました。1人は小脳に血腫、もう1人は心臓障害。2人とも手術で回復しましたが、危なかった。ラッキーでした。
他人事ではないと、そのとき骨身に染みました。因果関係は不明なものの、2人とも薬害による血栓症じゃないかと、私は見ています。
血栓はあっという間にできる
聞いたことありますよね、エコノミークラス症候群。長時間座ったまま動かないだけで、足の静脈に血栓ができる。飛行機の中で、数時間で。
つまり血栓は、じわじわ育つものではありません。そしてできた血栓が血流に乗って移動し、肺や脳や心臓の血管を詰まらせる。
健康診断で見つかると思いますか?無理です。血栓は動いています。今日の検査で「異常なし」でも、明日できるかもしれない。石のように固まったものなら画像に映ることもありますが、流れている微細な血栓を健診で捉える方法は、今のところありません。
隠れている場所
ここからが本題です。
痴呆と診断された子の中に、脳の微細血管が詰まっているケースが混ざっている可能性があります。てんかん発作とされている子の中にも。急に性格が変わった、遊んでいたら突然倒れた。そういう話を聞くたびに、私は血栓を疑います。
これは岡田説です。証明はできません。ただ、たくさんの相談を受けてきた現場感覚として、そう感じています。
がんとの関係:岡田説
がんは、炎症性疾患の側面を持っています。これは医学的にも認められつつある視点です。
そこに私はこう付け加えます。微細転移、つまりがん細胞がひそかに別の場所へ移動するとき、その現場には血栓の形成が関わっている可能性があります。がん細胞は血流に乗って移動しますが、そのときに周囲の凝固系を巻き込みながら移動するという研究もあります。
逆方向の話もあります。血栓で血流が滞り、組織が酸素不足になった場所は、発がんの舞台になりやすい。酸素が届かない環境で生き残ろうとした細胞が、異常な増殖を始める。これも岡田説ですが、筋は通っていると思っています。
つまりがんと血栓は、にわとりと卵の関係にある可能性があります。どちらが先かではなく、互いに悪化させ合っている。
薬と血栓の関係
血を固める・溶かすという反応は、生体が絶妙にコントロールしています。そしてそのバランスに影響を与える薬は、意外と多い。
代表的なものを3つ挙げます。
ステロイドは凝固因子を増やし、血液を固まりやすくする方向に働きます。利尿剤は脱水を招き、血液を濃くします。抗がん剤は血管の内壁を傷つけることがあります。
ただしこれは、特定の薬だけが「悪い」という話ではありません。血栓形成のメカニズムはとても複雑で、薬との関係を単純に断言できるものではない。
薬は基本的に化学物質です。肝臓や腎臓といった代謝系に何らかの負担をかけるものは多く、その延長で血液にも影響を与える可能性がある。これは薬が持つ宿命的な側面とも言えます。
すべてが明らかになっているわけではない。目に見えにくい未知の小さな影響は数え切れない。だからこそ、薬に頼る前の日常管理が大切になってくるのです。
なぜ病院では防げないか
誤解しないでください。獣医師を責めているのではありません。これは構造的な問題です。
血栓症の診断には、MRIや心エコー、造影検査が必要になることがあります。しかし日常の診察でそこまで踏み込むことは、費用的にも時間的にも現実的ではありません。そもそも「血栓かもしれない」という視点で診ていなければ、検査を提案すらされない。
見つかったとしても、微細な血栓に対して病院ができることは限られています。抗凝固薬を使えば出血リスクが上がる。出血リスクが上がれば、いざ手術が必要になったときにできなくなるというジレンマがあります。血を固める力と溶かす力のバランスは、生体が絶妙にコントロールしているものです。そこに薬で介入するのは、思っているより繊細な話です。
だから予防しかない。そして予防は、日常の積み重ねです。病院ではなく、飼い主にしかできない領域です。
自分で防ぐ、5つの習慣
難しいことはありません。今日からできることばかりです。
水分摂取:これが最重要です
血液がドロドロになる最大の原因のひとつが、水分不足です。血液の粘度が上がれば、血栓はできやすくなる。
ただし喉の渇きだけに頼っていると、水分は慢性的に不足します。人間も動物も、喉が渇いたと感じる前にすでに足りていないことが多い。
だから「美味しいから飲む」という動機を使ってください。人のスープを薄めたもの、カルピスをほんの少し加えた水。飼い主と同じものを飲んでいるという嬉しさも、動物には立派な飲む理由になります。水分補給は義務感より、ほっこりで。
腸内環境:善玉菌を増やすものを日常に
体内の慢性炎症は、血栓リスクを高めます。その炎症をコントロールする鍵が腸内環境です。発酵食品、食物繊維、善玉菌を増やすものを日常的に取り入れてください。人間なら味噌汁、納豆、根菜類。ペットならフードに少量の発酵食品や野菜を加える。腸が整えば、全身の炎症レベルが下がります。
ヨーグルトが腸に良いというイメージがありますが、乳製品と血栓の関わりについては私自身まだ疑問を持っています。ここでは積極的には勧めません。
サバ缶:EPAは有用、ただし量に注意
EPAには血液をサラサラにする効果があります。サバ缶は手軽で優秀な食材として、長らく推奨しています。ただしタンパク質の過剰摂取は、腸内環境悪化要因、そして体内炎症増加要因。摂れば摂るほど良いではなく、あくまでトッピング程度に。
散歩:どんなに短くても歩く、ただし水分とセットで
血栓は心臓や脳で突然できるわけではありません。心臓から遠い脚の静脈でできやすく、それが血流に乗って肺や脳や心臓の毛細血管に詰まる。だから脚を動かすことが、直接的な予防になります。
どんなに短くても、歩いたほうがいい。5分でも10分でも、毎日動かす。特に高齢で動きが減ってきた子ほど、意識して外に連れ出してください。
ただし夏の散歩には注意が必要です。犬は汗をかかない、だから水分を失わないと思っている方が多い。これは間違いです。犬は舌を出した呼吸で体温を下げますが、このとき肺でどんどん水分を蒸発させ、その気化熱を利用しています。運動によって尿も出やすくなる。つまり散歩後には血液が濃くなっています。
散歩の前にも飲ませてください。後だけではなくて。
もうひとつ。極端な塩分制限をしている飼い主さんに時々出会います。体は塩分が不足すると、水を飲みたくなくなります。塩分制限が脱水を招き、脱水が血液を濃くし、血栓リスクを上げる。善意の管理が逆効果になっているケースです。塩分は敵ではありません。適切な量が必要です。
納豆や味噌:腸活の文脈で
納豆に含まれるナットウキナーゼが血栓を溶かすという話を聞いたことがあるかもしれません。ただ私はこの効果には懐疑的です。酵素は消化管を通る過程で分解されます。複雑な立体構造を持つタンパク質が、酸の海である胃をくぐり抜け、酵素機能を維持したまま吸収されることは、まずない。
ただし、納豆そのものは別の話です。腸内環境を整える発酵食品として、納豆は優秀です。ナットウキナーゼへの期待ではなく、腸活の一環として日常に取り入れてください。味噌も同様です。
最後に:知った今日から始めてください
血栓そのものは、秒単位・分単位でできます。エコノミークラス症候群で「数時間」と言いましたが、あれは条件が揃うまでの時間です。条件が揃った瞬間から、血栓の形成は一気に始まる。
だから「前兆を見逃さないようにしよう」では間に合わない。条件を揃わせないこと、それが唯一の対策です。
水を飲ませる。腸を整える。歩く。血栓予防に関しては、薬やサプリを超える対策になると私は思っています。日頃のちょっとした心がけが、そのまま最大の予防になります。
私の家族が倒れたあの日から、毎日納豆を食べるよう伝えています。味噌汁も欠かさない。散歩は短くても続ける。知っているかどうかで、日常の積み重ねがまったく変わります。
ペットも人も、血管の中を流れる血液で生きています。その血液を守れるのは、そばにいるあなただけです。
今回は以上です。
「犬を飼うと健康寿命が伸びる」なんて話を聞いたことがあるかもしれませんね。散歩で歩くことのメリット、今回の話でその解像度がぐっと高まったかもしれませんね!