【薬が効かない】体が強いからという逆転の発想

薬と副作用

まえがき

先日、地元の神社を訪れたときの話です。

神様に手を合わせ、ふらっと境内を遠回りしていると、氷が張りつめた池の中に、鯉が泳いでいるのが見えました。

水温はほぼ0度。 人間なら数分で意識を失うような冷たさです。

でも、彼らは静かに、力強くヒレを動かして生きていました。

私はその姿を見て、思わず身震いしました。
寒さのせいではありませんよ!(笑)

彼らの体の中で、今この瞬間も猛烈な勢いで稼働している「生命維持システム」の凄まじさに、圧倒されたからです。

外が氷の世界だろうと、餌が手に入らなくても、環境変化に柔軟に対応して命を維持し続ける力。
科学の世界では、これを「恒常性(ホメオスタシス)」と呼びます。

私は、この「人には設計不可能」な完璧な自動運転システムを、科学への敬意を込めて「神の領域」と呼んでいます。

ときどき私は、恒常性のみならず、この世界があまりに完璧すぎて、「人を超える誰か?によって記述されたプログラム」なのではないかと疑ってしまいます。それくらい、計算が合いすぎているのです。

おっと、難しい説明はほどほどに。
今日は、あの鯉と同じように、あなたの愛犬・愛猫の体の中に宿る「神様」のお話をします。

 

ここで、あなたに変な質問をします。

昨日、あなたはカレーを食べましたか? それともサラダでしたか?

どちらでもいいのですが、ひとつ確かなことがあります。 カレーを食べたからといって、翌朝いきなり激太りしたり、体臭がスパイシーになったりはしませんよね。 逆に、サラダを食べたからといって、翌朝いきなり血液がサラサラになって健康体になることもありません。

私たちはこれを「当たり前」だと思っていますが、実はこれこそが「生命最大の防御システム(恒常性)」なのです。

 

体は「鈍感」であるように作られている

もしも、食べたものの影響をダイレクトに受ける体だったら、どうなるでしょう? 体に良いものを食べれば一瞬で元気になりますが、逆に、腐ったものを一口でも食べれば、即病院送りでしょう。

そんな危なっかしい設計では、野生の世界で生き残れません。

だからこそ、神様(体)は「外部からの影響に対して、あえて鈍感であること」を選びました。 ちょっとやそっとの刺激が入ってきても、 「はいはい、いつも通りにしておきますね」 と、頑固に現状を維持しようとする。

この「変わらない強さ」こそが、生きる力の源なのです。

 

「薬が効かない」の正体

さて、ここからが本題です。 多くの飼い主さんが、「薬を飲ませているのに、数値が下がらない」「変化がない」と悩みます。

一般的には、これを「効果がない」「病気が進行している」とネガティブに捉えがちです。

でも、少し視点を変えてみてください。 それは、あの子の持っている「恒常性(生きる力)」が、ものすごく強いという証拠かもしれません。

薬というのは、言ってみれば「外部からの強烈な介入」です。 自然の摂理に逆らって、無理やり血圧を下げたり、炎症を止めたりしようとする「異物」です。

よく「薬はリスク(毒)だ」と言われますが、薬剤師の私からすれば、それは正解です。なぜなら薬とは、毒性を使って体の機能を「麻痺」させたり「遮断」したりする道具だからです。「毒をもって毒を制す」。それが薬の正体なのです。

その異物が入ってきても、体が変わろうとしない。 それは、あの子の体が「余計なことすんな! 私は今のバランスで生きてるんだ!」と、外部からのコントロールを弾き返している状態とも言えるのです。

「薬が効かない」 それは、見方を変えれば「外部からの指図を受け付けないほど、生命としての芯が太い」という希望のサインかもしれないのです。

 

「神の領域」と喧嘩をしない

もちろん、痛みがある時などは薬が効いてほしいものです。 しかし、慢性的な病気において、薬がすぐに効かないことを嘆く必要はありません。

「ああ、この子の体(神様)は、まだ自分の力でバランスを取ろうと必死なんだな」

そう思って、敬意を払ってください。

現代医療は、この「神の領域」を、さらに強い薬でねじ伏せようとしがちです。 でも、サラダを食べてもすぐには健康にならないのと同じで、体は急には変わりません。 急に変えようとすれば、体は必ず反発(抵抗)します。

私たちがやるべき「セルフケア」は、体のハンドルを無理やり奪うことではありません。 この頑固で頼もしい「恒常性」が、少しずつ、少しずつ良い方向へ向くように、環境を整えてあげること。

  • ストレスのない睡眠。

  • 消化に負担のかからない食事。

  • そして、飼い主さんの笑顔。

これらは薬のような即効性はありません。 でも、「カレーを食べても変わらない体」を、数ヶ月、数年かけてじっくりと作り変えていくのは、結局そういう地味な積み重ねだけなのです。

科学(薬)を否定はしません。しかし、それはあくまで「緊急時の道具」です。

「即効性」という甘い言葉に釣られて、「神の領域(恒常性)」を踏み荒らすことだけは、絶対にやめてください。

「決して、部屋の中を覗かないでくださいね」

昔話の『鶴の恩返し』で、つうはそう言いました。彼女が命を削って美しい布を織っている間、決してその扉を開けてはいけなかったのです。

恒常性も同じです。 体という密室の中で、神様が必死に「命」を織り上げている最中に、不安だからといって薬で扉をこじ開け、土足で踏み込んではいけません。

驚いた鶴(治癒力)は、どこかへ飛んでいってしまいますよ。

軸足は常に、一番近くにいるあなたの「セルフケア」に置いてください。自然の摂理を理解し、神様の邪魔をせず、その力を信じて待つこと。

それこそが、体の中にいる「神の加護」を味方につけるための、最も謙虚で、最も賢い「生存戦略」なのです。

 

追伸

偉そうに「恒常性」を語った私ですが、実は私自身の体でも実験を続けています。

もう何年も、シャンプーや石鹸を使っていません。食事も基本は「一日一食」です。

「汚い!」「不健康!」と思いましたか?(笑)
でも、皮膚の常在菌やオートファジー(細胞の自食作用)という「神の領域」を信じて任せると、肌も髪もベタつかず、体調もすこぶる良いのです。

自分の体で証明できなければ、飼い主さんには勧められませんからね。

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