犬の皮膚炎が夏に増える──この現象は一般的によく知られており、その原因として「高温多湿」や「マラセチアの増殖」が頻繁に挙げられる。確かに、夏季の気候条件が皮膚常在菌や真菌の繁殖を促進することは科学的にも裏付けられている。
しかし、10年以上にわたる健康相談を通じて得られた観察の蓄積からは、このような環境要因だけでは説明しきれない、より構造的な病態形成の可能性が浮かび上がる。
着目すべきは、春から初夏にかけての医療的介入の集中である。
狂犬病予防法において、犬には年1回の狂犬病ワクチン接種が義務づけられている。ただし、その期間に関して法律は明示しておらず、1年のうちいつ接種しても良い。にもかかわらず、全国の動物病院では例年、4〜6月に一斉に接種を案内する体制がとられている。
これは制度的な指示ではなく、むしろ**慣行的な運用と経済的合理性によって“春に集中するように仕向けられている”**結果である。例えるならば、春の“アユ釣り解禁”のようなものであり、年中行事として機能している。
このワクチン接種に加え、同時期に多くの飼い主がフィラリア予防薬、ノミダニ駆除薬の投与を開始する。結果として、春から初夏にかけての犬の体内は、複数の薬剤による生理的負荷に晒されることになる。
これらの薬物──殺虫成分、免疫刺激物質、添加物等──は、代謝器官への負担を通じて皮膚に間接的影響を与えうる。副作用情報について「安全性が確立されている」とする意見も存在するが、その多くは因果関係が不明とされて報告対象から除外されており、副作用が全件的かつ体系的に把握されているとは言いがたい。この点にも慎重な再検討が求められる。皮膚は“第二の肝臓”とも呼ばれるように、代謝や排泄の補助経路としても機能する。内臓系の代謝処理が飽和すれば、その余剰は皮膚へと向かい、炎症やバリア機能の破綻を引き起こす。
ここに、夏季の高温・湿度・紫外線・花粉といった外的要因が加わることで、皮膚炎として“臨界点”を迎える。つまり、「夏に皮膚炎が多い」のではなく、「夏に発現する構造が、春の制度的行為によって準備されている」と捉えることができる。
この見解はあくまで筆者個人のものであるが、皮膚疾患をめぐる“季節要因説”に対し、制度的・医原的視点を含めて再検討する契機となれば幸いである。