岡田式 肝臓の五本槍ケアの基本型
一、再生力を高める
二、壊れにくくする
三、免疫力を高める
四、無駄な薬を止める
五、ストレスを解除する
はじめに
奇跡的な改善というのは実際にあります。
ただ私は仕事を通じて数え切れないくらい快方に向かった子の話を聞かせてもらってきたので、いまは奇跡とは感じず、十分に狙えることだと認識しています。
多くの方がハマってしまう原因のひとつが、もっと治療を強化しないと良くならないのだという思い込みです。
薬が効いていないのは量がまだ足りないからだ。
食事制限をしても良くならないのはまだ制限が緩いからだ。
そう考えてしまい、数値ばかりに目を奪われ視点が狭くなっていつのまにか身体全体の健康から離れていってしまいます。
薬の増量は副作用を呼び込みやすく、極端な食事は偏食になりがちです。肝臓は身体の一部です。
肝臓の健康度が身体全体に影響を与えると同時に、全身の健康度もまた肝臓に影響を与えます。
細かい視点も必要ではありますが、身体全体を大局的に捉える大きな視点は絶対的に必要です。
薬の増量や食事制限の強化よりも、軌道修正で上手くいってしまう子が多いのはそのためです。
肝臓病は生活習慣病と考えることができて、これまでのことが積もり積もっていまの状況になっています。
一旦これまでの治療を細かい視点と大きな視点で評価し、本当にご愛犬に合った方法に修正していくことが大切だと考えています。
基礎知識
肝臓は毎日壊れ、毎日再生することでバランスを保ち健康状態を維持している。
このバランスが崩れたまま放置していると、肝炎となり、さらに放置し続けると肝臓の一部線維化、黄疸、肝硬変(全体的な線維化)、肝性脳症となる。
肝臓にはタフさと余力があり、少々のことでは大事に至らない。
初期~中期の肝臓病は無症状で、食欲や元気さも維持される。
一、再生力を高める
肝臓の再生力は、肝臓の細胞の再生スピードである。
肝臓病を起こす子は再生スピードが落ちている可能性があり、これを回復させる。
細胞再生に関わる細胞増殖因子は胎盤(英名:プラセンタ)に含まれるものの、通常の食事からは摂りにくいため、再生力に関してはサプリメント製品を活用を検討する。
再生力は自然治癒力のひとつであり、メンタルの影響も受ける。
二、壊れにくくする
肝臓は毒性のある老廃物、化合物、医薬品を全身から集めて弱毒化処理する。
その際に受けるダメージが肝臓の細胞を壊すため、これを軽減させる。
肝臓のダメージを増加させるアンモニアは、腸内の悪玉菌がタンパク質を基に作り出すため、肉類は制限する。
善玉菌の増加によって悪玉菌の割合を下げることができるため、食事に発酵食品や繊維質を加えると良い。
三、免疫力を高める
肝臓病の本質的な原因として肝炎ウイルス説がある。
肝炎ウイルスは多くの子が保有していると考えられるが、免疫力によってその活動が抑えられている。
一般的な肝臓病治療が無効だったり、再発を繰り返すような子は、免疫力が低下していると考え、多面的な対策を実行するべき。
免疫力は自律神経を介したメンタルの影響を多分に受けるため、大きな不安やストレスを取り除く。
免疫と腸内環境には密接な関わりがあるためこれを良化させる。
四、無駄な薬を止める
一般的に多用される肝臓治療薬は、これまでの知見からローリスク・ローリターン、つまり安全性は高いものの効果が得られる子もあまり多くないと考えられる。
効果の得られない薬(無駄な薬)は止めるという大原則に基づき、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月のあたりで継続する価値があるかどうかを評価する。
ステロイドや免疫抑制剤で肝機能が悪化するのは、免疫低下により肝炎ウイルスを活性化させてしまうためだと考えられ、これらの乱用や安易な使用は控える。
抗生剤の多用は長期的に免疫力低下となる。
人に使われる薬の半数以上は、程度の差があるものの肝障害の副作用を有し、それが説明もなく動物医療でも多用されている。
多剤併用は副作用に加えて、薬剤間の相互作用が発生するために薬の数が増えるほどにリスクが上昇する。
五、ストレスを解除する
ストレスは多くの病気に関わり、肝臓病も影響を受ける。
ストレス過多のメンタル状態は、自律神経を介し免疫力と自然治癒力に悪影響を及ぼす。
肝炎ウイルスの沈静化、肝臓の再生促進の足かせになる。
厳格な制限食や、好きな肉をゼロにする、早期からの肝臓サポート食への切り替えは、楽しみを奪い、ストレス蓄積になるために極端にはしない。
検査や治療で覚える恐怖や、同伴した家族の不安顔は、そのときだけでなく夢として数日から数週間に渡ってストレスを与え続ける可能性がある。
食事は栄養バランスだけでなく、ストレスを解消するほど美味しく喜ばせるものでなくてはならない。
とくに通院日のご褒美はメンタル面でプラスとなる。
飼い主は一度本気で犬や猫の気持ちになると良く、彼らの視点で巨人のように大きな家族を見上げてみたり、診察台の上で巨人たちに囲まれているときの心境を想像してみると良い。
基本的にペットは自分の食事と家族の食事を比べ、なぜ自由に食べさせてくれないのか、なぜ毎日同じような食事なんだ、なぜ匂いが違うのだ、なぜ温かくないのだ、家族はなぜペットフードを食べないのだ、アイスや菓子を食べて良いのはなぜだ、と生まれてからずっと疑問に思っている。
彼らの最大のストレスは食事の格差であることをまず認知しなくてはならない。
補足
いま肝臓を患う子はとても多く、10年20年前よりも増えている印象です。
肝臓病は生活習慣と密接に関わるためでしょう。
それがゆえに自宅ケアは治療にプラスとなり、要になると考えることができます。
実際に私からのアドバイス後、明らかに状況が良くなったケースが数多くあります。
治療が長引き、再発を繰り返す子は多いのは、自宅ケアを取り入れずに病院に丸投げしていたり、誤った自宅ケアを続けているケースがほとんどです。
薬の副作用と思われる肝障害も少なくありません。
動物病院で薬物性肝障害に関する説明はほぼ皆無です。
いま多くの飼い主は素人だから自分の感覚は信じるべきではない、ネット記事のほうが信じられると言いますが、私の実感としてはその逆です。
飼い主の経験やセンスを動員したほうが治療はうまくいきます。
今主流のマニュアル化された治療で、個々に異なる体質や食事の好み、ストレス耐性、習慣、家庭環境といった要素をカバーできるはずがありません。
上記の五本槍の型は、特別な知識がなくても安全に実践できるものです。
ひとつひとつに意味があり、最初はどれか1つから始めてもよいですが、併せることで相乗効果が高まるようになっています。
それを型としてまとめています。
型は重要で、最初から大きく変えないほうが良いでしょう。
慣れてきて自分のものにしたら、その後でアレンジしてみてください。
岡田式 胆泥の五本槍ケアの基本型
一、胆泥の基礎知識を頭に入れる
二、胆のうを収縮させる(脂質、サプリ)
三、胆管の詰まりを解除する(腸内改善)
四、無駄な薬は止める
五、時間をかけすぎない
一、胆泥の基礎知識を頭に入れる
胆泥の基礎知識は簡単です。
ですが多くの飼い主さんが理解しておらず、自然に逆らった方法で泥沼にハマっている方が少なくありません。
けして打つ手がない、八方塞がりということではありません。
胆泥に関する「身体の自然の摂理」をサクッと学んでしまいましょう。
胆泥は、胆汁が過度に濃縮したものです。
胆汁は肝臓で作られ、その後は胆のうに一時ストックするのですが、そこで濃縮されます。
10倍程度の濃縮は自然であり問題ありません。
しかし20倍30倍と濃縮が過度になって胆汁がドロドロと粘度を増すにつれ、やがて胆のうから出られなくなってしまいます。
これが胆泥です。
胆汁の重要な役割のひとつは脂質の吸収です。
食事に脂質が含まれているとそれを察知して胆のうが収縮し、中の胆汁が腸内に絞り出されます。
脂質は水に溶けないために消化吸収に手こずりますが、胆汁があれば水と混ざるようになります。
このとき濃い胆汁のほうが効果的なので、食間(空腹時間)に胆のう内で濃縮しておくのです。
ただし胆汁の出番がなくても濃縮は進みますので、自然に逆らった食生活を続けていると、やがて胆泥が出現してくる可能性があります。
一般的な治療はウルソ、スパカール、抗菌剤などによる薬物療法に加え、極端な低脂肪食へのシフトです。
もちろん反応する子もいるのでしょうが、改善していない例を数多く見聞きしています。
偏りが生じることを理解したうえで、健康相談では一般治療で改善する子は10頭中1~2頭、残りの8~9割が目的を達成していないという印象です。
多いわけで貼りませんが、胆泥症が長引くと胆嚢粘液嚢腫に進行する可能性があります。
胆嚢粘液嚢腫では胆泥のみならず、ムチン質と呼ばれる粘度の高い物質が大量に分泌されるようになります。
ムチン質は胆泥の刺激から胆のうを守るために分泌されると考えられますが、それが胆のうに溜まり始めると一般的には手が付けられないと判断されて胆のう摘出手術に至ります。
二、胆のうを収縮させる
ドロドロした胆泥を出すには、しっかり胆のうを収縮させることが大切です。
イメージしてほしいのが栄養補助ゼリー(例:ウイダーinゼリー)です。
ゼリーはフタを開け、逆さまにしても出てきません。
アルミの袋をムギュッと握ると中身が出てきて食べることができます。
胆のうもただの袋ではなく、筋肉でムギュっと収縮して中身を絞り出す仕組みになっており似ています。
では胆のうがいつ収縮するかと言えば、それは脂質を含む食事を摂ったときです。
私の経験では、脂質を5%以下に抑えている子に胆泥症が多いという印象です。
低脂肪食では胆のうが収縮が弱くなると考えています。
脂質を15%程度に引き上げると胆のうがしっかりと収縮するようになり、少しずつ胆泥が絞り出されると推測しており、実際に改善するケースがあります。
良くなってしまっても脂質割合を10%程度にキープしたほうが良いでしょう。
一部のサプリメントはこの胆のうの収縮に関わっていると推測しています。
脂質量の適正化とともに併せてお使いになることをお勧めしています。
三、胆管の詰まりを解除する
胆汁は胆のうから胆管という細い管を通って腸内に出てきます。
この胆管が詰まり気味でも胆汁の流れが停滞してしまい、胆泥の増加要因になると考えています。
なお胆管は膵管と合流するため、胆泥症と膵炎を併発する可能性もあります。
胆管の詰まりで一番に考えるのは胆管感染症です。
胆管に細菌感染が起こり、炎症が細い胆管をつまらせてしまいます。
この細菌は外部から来たものではなく、腸内にいるいわゆる悪玉菌だと考えられます。
この対策を講じるときも自然の摂理に沿った考え方がお勧めです。
悪玉菌のシェアを下げたいので、善玉菌を増やしていけば良いということです。
病院ではメトロニダゾールなどの抗菌剤で悪玉菌を殺そうとしますが、そもそも無効なケースも多く、腸内環境を乱して状況を複雑化させる可能性があります。
その点、善玉菌を増やす方法は安全かつ健康全般に良い取り組みです。
もし反応がいまいちだったとしても、損はしませんし、継続して健康度の底上げにできます。
善玉菌の多い少ないは、日頃の食事によって大きく変化します。
善玉菌は炭水化物、特に繊維質やオリゴ糖などの多糖類、そして発酵食品を好むのでフード選びやトッピングの工夫に盛り込んでください。
逆に悪玉菌はタンパク質リッチな食生活で増加してきますので、多すぎるなら減らし、喜びが得られる程度にしましょう。
私はひきわり納豆を勧めていますが、これはいろいろな乳酸菌製剤と比べても反応が勝っていると感じているからです。
ただし数ある製品の中でも「乳酸菌生成物質」と呼ばれるものは性能が良さそうです。
納豆が苦手な子は、乳酸菌生成物質の入っているものを選ぶと良いでしょう。
四、無駄な薬を止める
薬を否定するわけではありませんが、大原則として薬が無効であるとわかれば中止すべきです。
副作用リスクがあり、状況を複雑化させてしまうためです。
動物病院ではたいてい説明不足ですが、すべての薬に副作用があることを忘れてはいけません。
ウルソは利胆剤と呼ばれる薬で、胆泥症に高確率で処方されます。
危険な副作用が少なく使いやすいことがその理由としてあげられますが、多くの子が飲んでいる割には、良い反応例はあまり見かけません。
実際に処方している獣医師から聞いても、他に薬がないからといった消去法的な理由、慣例的に使われているといった理由でとりあえず使用するといった感じです。
もちろんすべての子に無効とは言いませんが、胆泥の解消には弱すぎる印象があります。
スパカールは胆管と腸の接合部にある筋肉(オッディ括約筋)を緩め、胆汁の流れを良くしようという目的で使われる薬です。
オッディ括約筋のイメージですが、お尻の穴のように考えてもらってよいでしょう。
お尻の穴を開きっぱなしにしておけば便が出るか、出るのは液体ばかりではないか、そうした疑問を持たれたとしたら、私もまったく同じ考えです。
オッディ括約筋は腸の内容物が胆管に逆流してくるのを防いでいますので、開きっぱなしになると胆管に菌が入り込みやすくなり、胆管感染症のリスクが高まり、結局は胆泥の改善どころか逆効果になる可能性も考えています。
抗生剤は胆管感染症の緩和を目的に処方されます。
病院では悪玉菌を殺す目的でメトロニダゾール(フラジール)を始めとして、いくつかの抗菌剤を使いますが無効のことも多く、場合によっては腸内細菌のバランスを崩す可能性があります。
こうした抗菌剤は効果が出ていてもやがて時間とともに効き目が悪くなることが普通です。
抗菌剤多用による免疫力低下が余計に胆管感染症を悪化させる心配もあります。
ですので長期的な連用や乱用に近い使い方はお勧めできません。
むしろ止めてから良くなっていくケースを複数見ています。
ステロイドはとにかく炎症を鎮めることを目的に処方されますが、ステロイドの本質は免疫抑制剤です。
感染性の炎症はさらに悪化しやいために、一時的に良くなっても長期的には逆効果になる可能性があります。
五、時間をかけすぎない
胆泥は多くの犬に見られるものの、ほとんどのケースは命に関わりません。
しかしながら長期にわたって胆泥を滞留させておくと、胆のう全体を塞ぐようになって機能低下を引き起こしたり、一部石のように固くなってきたり、胆のうが刺激を受け胆嚢粘液嚢腫に進行してしまうことがあります。
そのような状態でも元気を維持できる子も少なくありませんが、一般的な動物病院ではこのままでは危険だとして手術が提案されるでしょう。
できれば手術を回避するべきですし、胆のうを摘出したとしてもALPが一向に下がらないなど不安が解消しないといった相談事例も複数受けています。
長らく胆泥が解消していない場合は、一度過去を振り返ってみて「これまでの治療を続けて、この先改善する可能性はあるのだろうか?」と考えて見てほしいと思います。
転換点だと考えるならば、この五本槍治療に一ヶ月でも良いのでトライしてみてほしいと思います。
もし良い兆候が見られるようならば方向が正しい可能性があります。
さらに一ヶ月継続してみて正しさが確認できれば、ご自身の判断を信じてみてください。
自宅ケアで早く結果を出すために慌てすぎてご愛犬に強いストレスがかかるようなことがあってはいけませんが、あまり時間をかけすぎてもいけません。
食生活の改善とともに、その補助とブーストを狙ってサプリメントを加えることをお勧めします。
弊社では動物病院でも実績のあるアルピニアをお勧めします。
補足
上記は組み合わせることで真価を発揮します。
自然と相乗効果を狙えるようにしてあります。
一本槍な治療に時間やお金を費やすよりも、まず五本槍治療でトライしてみて、結果が出たらちょっとずつ手を抜いていく(いい意味で)ほうが良いでしょう。
いま胆泥症の子はとても多く、近年ますます増えている印象です。
近年の低脂肪食の人気にともない流行している「油抜き」が一因ではないかと私は強く疑っています。
極端な脂質制限には大きなリスクもあります。
本来は脂質とともに胆汁によって吸収されるビタミンA・D・E・Kといった脂溶性ビタミンが吸収されにくくなってしまうことです。
それらビタミンは免疫や肝機能だけでなく、体全体の健康維持に不可欠であるため、脂質制限には実は危険な側面もあるのです。
身体の自然の摂理を理解し、その自然の流れに沿った自宅ケアを推奨します。
疑問点や相談事があればサポートいたしますので、LINEから気軽にお問い合わせください。
良くなられることを願い期待しております。
脂質制限解除により胆泥が減少した一例
なかなか胆泥が減らずにいた佐々木動物病院の患者さんです。
試しに脂質制限を止め、脂質15%に増やしてみては?と提案しました。
すると3ヶ月後の検査で、あきらかに胆泥が減少していました。
脂質制限中(画像2枚)
胆のうの大部分を胆泥が占有し、空隙がほぼありません。
ひどい状況と言えます。
脂質制限解除後(画像2枚)
胆泥が減少し始め、空隙が4倍くらいに広がっています。
まだ良いとは言えませんが、3ヶ月前と比べて言えばはるかに良いです。