ペットの食事に関わる、私の知る、私の中で正しい情報をお伝えします。おそらくみなさんの常識とは異なる部分が多く、きっと違和感を覚える方が多いと思います。
逆によく電話でお話している方にとっては、すでに聞いていること、もう実践していることかもしれません。
私の知識は、実際に長生きさせている飼い主さんから直接教わってきたものです。ですので私からすると逆にネットに書かれていることに多々違和感を覚えますし、「こんな情報を流してるからこんなに病気が増えてきたんだろう」と気分が悪くなることもあります。
あまり書きすぎるとどこからか怒られそうなので広く公開はできませんが、LINEならば大丈夫かなと考えました。それでもだいぶマイルドに書いております。
ネットに蔓延る作り話
私はあまりネットを参考にすることがなく、あるとしてもたいていは厚生労働省や農林水産省関連の比較的公平な情報です。
いま日本のサイトの大部分がビジネス絡みだということはご存知でしょうか。
実際によく見ると、何かを売りたい、紹介手数料をもらいたいというサイトばかりなのですが、そうしたサイトが「〇〇は良くないからこの商品を勧めます!」と話を持っていくのは自然ですし普通です。
それらは情報ではなくチラシですし、セールストークです。
そうした発信が悪いとは言いませんし、企業活動として当然の発信方法だと思うものの、勉強するにはまったく向きません。
そこでインプットした知識はとても偏っていて、別の視点がごっそりと抜け落ちているため、たいてい実践では使い物になりません。
作り話が多く、机上の空論だらけです。
「残飯が短命」は作り話
私の経験では、残飯を与えている犬猫たちは別に短命ではありません。それどころか長生きさせている飼い主さんにヒアリングすると、何かしら残飯(人の食事)を与えているケースが多く、たぶん半数以上です。
昔の犬が短命だったのは、若年でかかるフィラリア、外飼による寒暖差、脱走による事故が理由です。食事の影響があったとしてもごく僅かでしょう。
「安いフードは病気になる」は作り話
ネットでは、安いフードを与えていると病気になるという情報が多いようです。ですが毎日受けている健康相談から私はそうした傾向を一切感じません。しいて言えば逆はあるかもしれません。
「動物に塩分は不要」は作り話
ペットフードには塩(塩化ナトリウム)が入っていることご存知でしょうか。パッケージをしっかり読むか、メーカーに聞いてみてください。
病院の点滴には塩が入っていることをご存知でしょうか。点滴1パックに何グラムの塩が含まれるのか一度獣医師に聞いてみてください。
「油を減らしたほうが長生きする」は作り話
油は健康の敵というイメージを持っている飼い主さんがとても多いと感じます。たしかに摂りすぎて健康を崩すケースはありますが、油抜きは健康維持、生命維持を難しくします。ですのでペットフードは当然のように油(脂質)を含んでいます。
「理想は完全手作り食」は作り話
完全手作り食には落としな穴があります。それは手本が間違っているという落とし穴です。手本によっては塩と油はできるだけ取り除いたほうが良いとしていますが、私の知る限りそれは危険です。
たしかに完全手作り食の中に理想形はあるものの、たいていの飼い主様が挑んでいるのは危険な完全手作り食です。
「タンパク質を摂らないと筋肉ができない」は作り話
これは語るのはタブーなのかもしれません。実例を挙げますのでみなさんで理由を考えてみてください。
赤ちゃんは日毎に背が伸び筋肉がついて、寝返りができるようなってやがて立ち上がります。それはステーキやハンバーグのおかげでしょうか。
ベジタリアンと呼ばれる方が骨と皮だけではなく、むしろアクティブな人までいることをどう説明しましょうか。
牛はなぜ牧草であんなに大きくなるのでしょうか。キリンは葉っぱだけで5メートルにもなり、草を食べるゾウがトラックより重くなるのはなぜでしょうか。
補足「良質なタンパク質」の疑問
良質なタンパク質とは一体何なのでしょう。当たり前のように日本にはびこっているこの言葉ですが、そんなに気にする必要はありません。
よく栄養士が説明するところでは、アミノ酸スコアが100であれば良質なタンパク質で、具体的には肉、魚、卵、大豆がそれに該当。
逆にパンや白米はアミノ酸スコアが低く、不良のタンパク質と力説するわけですが、ちょっと考えてみてください。誰がパンや白米をタンパク源にしようと考えるでしょうか。いったい栄養士が何を言いたいのか私にはよくわかりません。
低質なタンパク質はほぼ無いと考えていただいて支障はないでしょう。
「栄養士の言うこと」について
私は情報を耳にしたとき、いつも「実際はどうなんだろう」と考えます。
テレビやネットで栄養士がいろいろな話をしています。それを実践すればあたかも健康になり、寿命が伸びるような話しぶりです。
ですが私が調べた範囲では、当の本人である栄養士たちが長生きしているという情報が一切出てきません。実に奇妙だなと感じます。
ちなみに医師や薬剤師はどうなのでしょう。こちらもとくに長寿職というわけではないようです。
「日本の野菜は安全」は作り話
例外があるという前提でお話します。日本の農薬使用量は世界トップです。虫食い跡のまったくない葉物野菜、茹でても虫が浮いてこないブロッコリーは農薬のおかげです。
残留農薬基準も海外に比べてかなりゆるく、世界的に規制のかかる強力な農薬も日本ではゆるゆるです。
そして世界的な農薬削減の流れの中で、日本は残留農薬基準を緩め、完全に逆行しています。
私たちを混乱させる表現
作り話とは言えないものの、真に受けるとおかしなことになりがちな言葉、勘違いしやすい言葉をいくつか列挙します。
新鮮な〇〇をふんだんに使用
ペットフードのキャッチフレーズとしては面白いと思います。ただ、どうなのでしょうか。私からするとペットフードはどれもインスタント食品で、加工から数ヶ月、数年間日持ちします。どの野菜も収穫するまで畑に植わっていて、どの家畜も加工されるまで歩いていました。
新鮮と謳うフードと、そうした言葉を安易に使わないフードにどんな差があるかなと考えたことがありました。
〇〇な野菜20%、〇〇な肉80%使用
素晴らしい商品に思えます。しかしなぜか原材料を読むと穀物も入っていたりします。タンパク質の割合は30%だったりします。
これは簡単で、野菜100グラムのうち水分が80グラム以上で、肉は100グラム中60グラム以上が水分だったりするからです。
物は言いようですね。上手です。
〇〇菌〇〇億個含有
乳酸菌などでよく見かける表現ですが、私の経験だとなぜか納豆のほうが効果があります。良い製品ならば納豆の3倍効きますと書いてくれると良いのですが、見たことがありません。もしあったら推奨したいです。
生きて腸まで届く
なんかすごそうですが、結局どんな意味があるのでしょうか。詳しい獣医師からは死菌のほうが良いという話を聞いたこともあります。いずれにしても納豆の何倍と書いてくれるとわかりやすいです。
植物性オメガ3オイル
オメガ3オイルはおそらく健康増進に役立ちます。ただしそれはEPAおよびDHAと呼ばれる青魚に含まれるオメガ3オイルで摂取した場合です。実はアマニ油やえごまオイルにはEPAやDHAが一切含まれず、代わりにαリノレン酸という別のオメガ3オイルが含まれます。体内でEPAやDHAに変化すると言われていますが、はたして犬や猫が100%変換できるのかがわかりません。私の印象では青魚で摂った場合に健康メリットが得られます。
そもそも犬は肉食だから・・・
犬の祖先が肉食だったということならば本当かもしれません。しかし肉食に偏った食事が犬を健康にするかは別ですし、私の経験上おそらく違います。
人の場合、健康面でもっとも優れた食事が日本食です。根菜や発酵食品を多く取り入れ、肉をほとんど使わないのが日本食の大きな特徴です。
人ももともとは狩猟中心で今よりも多くタンパク質を摂っていたでしょう。しかし肉メインの食生活は健康的ではありません。
犬でも同じです。
食糞は異常行動
まず最初に食糞を勧めているわけではないことをお伝えしておきます。そのうえで食糞の経験がある犬は少なくありません。異常な子だけが食糞しているとも思えません。むしろ犬がうんちを食べるのは普通であり、本能なのだと私は考えております。私からするとうんちは発酵食品と見ることができて、犬は健康維持に役立てていたのではないかと推測します。つまり食糞は本能に基づく行動であり、異常行動ではありません。
腎臓病の原因はリンである
リンが腎臓病の原因であるとは言えません。
まずリンは毒ではなく身体に必要な元素です。有り難いことにあらゆる食材に含まれていてまず不足しません。余分なリンは尿に排泄されるので過量になりません。
そのうえで、何らかの理由(加齢、肥満、高血糖、ストレスなど)で腎臓の機能がかなり落ちてくるとリンの排泄が滞ることがあり、見たことはありませんがひどいと高リン血症となって血管障害を起こすと言われています。この話をリンが原因で腎臓が壊れるという話にしてしまうとおかしなことになります。程度の軽い腎臓病では極端な食事制限が楽しみや生きる意欲を奪うデメリットも考慮しておかないと、トータルで見たときに損になるかもしれません。
食事の正しい考え方
食事は健康を左右します。これは間違いありません。
ですが私たちは、テレビやネットから少し(かなり?)間違った教育を施され、あたかもそれが真実であると信じて疑いません。
しかしそれがときとして、正しい取り組みの足かせになります。
例えば、「食欲がなく、もう何を与えても食べようとしません」といった相談をよく受けますが、もう少し食材の範囲を広げてくれたら手はあるんだよなと思います。
そして、どうやってそれをこの人に伝えよう、どうしたらこの方を相手を傷つけずにと考えます。
「厳格な食事制限」は裏目に出やすい
食事制限は厳格なほど病気が治ると考えがちですが、私の意見は少し違います。
療法食や何かを除去した手作り食は、たいてい何かを犠牲にしています。
それは味であり、それによって得られるはずの楽しみ、よろこびです。
好きなものを好きなだけ与えてほしい、という意味ではありません。
ですがよろこびは生きる意欲に通じる重要なもので、楽しみの少ない人生にくらべて、肉体的な寿命を延長させると私は考えており、削りすぎてはいけません。
また楽しみは免疫力を向上させる要素になりえます。免疫力は感染症やがんの発生を抑制して、長生きの可能性を高めます。
肝臓病を引き起こす根本的な原因になりえる肝炎ウイルス、胆泥と関わる胆管感染症、高齢で気をつけるべき肺炎、膀胱炎などの尿路感染症、皮膚・目・耳・口内トラブルなど、免疫低下を起因とする病気はたくさんあります。
食事を徹底していたのにどうして病気になってしまったのでしょう?という相談が少なくありませんが、私からすると十分にあり得る話です。
コントロールできる範囲で美味しさを許可し、場合によってはあえて少量の味付けをしたほうが良いでしょう。
「食べたものが身体を作る」は意味が違う
確かにそうなのですが、ではなぜステーキや焼肉を食べない赤ちゃんの筋肉量が日に日に増加し、自力で立てるまでになるのでしょう。それを解説している専門家はほぼいません。ゆえにみなさんも習っていません。
筋肉をつけたい、体力をつけたい、アルブミンを上げたい、貧血を治したい、そうした理由で肉を大量に与えても、なぜか思ったようになりません。
問題を食べ物(外部要因)ばかりに押し付けるのではなく、身体側(内部要因)にあるのではないかと考えてみてください。
簡単に言ってしまうと、一番は腸の状態を改善させることで、具体的には腸内の細菌バランスを良くすることです。その点において肉食は不利です。
こうした視点を持ったとき、「炭水化物は単なるエネルギー源」という教育のおかしさに気づくでしょう。そのうえで「食べたものが身体を作る」というのであれば、私もおおむね同意見です。
「食べれば元気になる」で病気が増えた
昔なら信じられませんでしたが、今のペットは生活習慣病になります。生活習慣病はたくさんあります。
一般的には、がん、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧性疾患、肝硬変、慢性腎不全などが挙げられます。
生活習慣病になるとまず薬物治療となるわけですが、本当の原因は生活習慣に潜んでいますので、当たり前ではありますが根本的な対策は食事、睡眠、運動の見直しです。
食事に関して少々の語弊があることを承知の上で言いますが、食べ過ぎが病気を増やしています。生活習慣病が飽食時代ならではの病気と言われるのはそのためです。
たとえ体に良いものだとしても食べ過ぎは病気を増やします。バランスに気を使った食事でも、食べ過ぎれば病気を増やします。タンパク質の割合を計算しても、ミネラルの過不足に気をつけても、アミノ酸スコアにこだわっても、発酵食品を取り入れても、お湯でふやかしたとしても同じです。
「そんなことを言われても、うちの子は食べることだけが楽しみなんです。」
本当にそうなのであれば致し方ありませんが、でも本当は家族と一緒にいることが楽しみですし、できればその時間を長くして、通院時間に奪われないようにすることが、飼い主とペットの共通の幸せではないでしょうか。量をコントロールするのは動物側ではなく人側の役目です。
その場の「快楽」「うれしそうな顔」「フリフリの尻尾」「もっともっとの催促」に負けて、数年後に訪れるしわ寄せが生活習慣病だとも言えるのです。
対策としては量から質へのシフトです。なかなかみなさんにとっては怖いことかもしれませんが、私は味で満足させる方法をお勧めいたします。
グルメになっても後で困りますので、がっつり味付けではなく、うっすら味付けがおすすめです。
「空腹はかわいそう」が幸せを減らす
空腹時間をしっかり取っている子の方が病気が少ない印象を持っています。
「胃腸が弱いので食事を5~6回に分けています」「食べる量が少ないので少量ずつ何度も与えます」「一度に食べると吐くので仕方ありません」
いろいろな事情があるのでしょう。ネットで調べて行き着いたのでしょう。ですが胃腸はどんなときに休みダメージを癒すのだろうか、肝臓ならばどうだろうか、そうしたすこし先のことも考慮しておきましょう。
空腹感はたしかに少し辛いものですが、その間に蓄えたエネルギーを使うように体はできていて、それが身体の正常なサイクルです。
それをずっと使わないでいてどんどん健康になるでしょうか。
空腹感は最高のスパイスになります。同じ食事でも美味しさを格段に向上させます。
空腹感は忍耐力を高め、メンタルを強くし、わがままを防止して、結局は理想的な関係を作ります。
他にも免疫向上からの視点、胃腸を鍛えるという視点、胃を小さくさせない視点、血糖コントロールなどにおいて、いろいろメリットが有ります。
あくまで参考知識ですが、成人は水分を摂っていれば二週間食べなくても大丈夫です。限界は2ヶ月とも言われています。
短期的には複数回に分けるのはあり、でも続けていったときに幸せが増えるのだろうかという長期的な視点でも見ることができると良いでしょう。
「人と動物は違う」という思想が違う
「自分のことはわかりますけど、人とペットは違いますから」と私に解いてくれる方がいらっしゃいます。たしかに人と動物で異なる部分があります。しかしほとんどの部分で人と動物は同じです。割合で言えば1個の違う部分に対して100個の同じ部分があります。
食事を消化してエネルギーを取り出す部分においては、まさにそのとおりです。
ゆえに先の生活習慣病もまったく同じ仕組みで発生しますし、その治療だと言って出される薬の成分はたいてい人と同じです。
世の中には「ペットに人の食べ物を与えてはいけない」という意見と「人が食べられる物はたいていペットにも安全」という意見があるでしょう。
私はこれまでの見聞から、人の食べ物を分け与えて長生きしている子が多いことを知っています。
一般的に危険だと言われている食材を与えた方数十人とお話して、実際に事故に至ったケースが1件もありません。
昔の犬は残飯を食べていたこと、寿命が短かったのは食事内容ではなくフィラリア、交通事故だということも知っています。
ですので「人の食べ物の大部分はペットにも与えることができる」という意見です。
そして人に悪いことはペットにも悪いと考えています。
「標準量」がベストではない
「標準量のフードを与えているのに太ってしまうんですが、減らしたほうが良いですか?」この答えはイエスです。
「でも減らしたらエネルギーが不足しましすよね?」この答えはノーです。
回答自体は簡単ですね。
でもこの質問者が抱えている根本的な問題点は「事実を軽んじ、情報を信じる」という現代人にありがちな共通の問題点です。
回答するだけでなく、その点をお伝えしないとまた別のことで問題を招くでしょう。
標準で太るのは不思議なことではありません。一人ひとりエネルギー効率が違うからです。うちの子は他の子よりも省エネルギーで燃費の良い子だと、それまでの様子を見ていればわかると思うのですけれど、自分に自信がないというか、自分で見たことを大切にしない飼い主さんが増えてきているように感じます。
エネルギー効率は明らかに一人ひとり異なります。
大食いの女性タレントが痩せていたり、一日一食の芸能人が精力的だったり、食べる量と体重の増減は、人によって結果が大きく異なります。
私の知る限り、それは動物でもまったく同じです。
病気が原因で太ったり痩せたりすることはありますが、まずは肥満という眼の前で発生している事実をよく見ないといけません。
愛犬愛猫にちょうど良い量は、情報ではなく自分の観察力から見出すのが一番良いです。
おすすめの食事法
良い食事というものは体質差や味の好み、持病などによって一律ではないものの、だいたい共通してくるところがあります。
ここまでに書いてきたことを一通り読んでおかれると、きっと理解しやすいでしょう。
発酵食品を取り入れる
人を含め動物の健康は菌とともに成り立っています。人の細胞が60兆個だと言われていますが、腸内には100兆もの細菌が住み着いています。肌には皮膚常在菌、口の中にも細菌がいて、つまり動物は菌と共存することで健康を保ちます。
菌の中にも健康に寄与するもの、どちらかというと寄与しないものがいて、そのバランスが宿主たる私たちの健康を左右します。
発酵食品はそのバランスを良い方向にシフトさせやすい食品です。
犬猫にも与えられる発酵食品
納豆は人に良い食材として確立していますが、これは犬や猫でも同じだと考えています。むしろ犬では人よりも適していると考えます。そのままで喜んで食べる子もいますし、付属のタレを1滴かけたり、鰹節やすりゴマで味を工夫して食べる子もいます。人と同じです。ひきわり納豆のほうが効果的です。普通の豆納豆と成分、性能が少し高めです。
甘酒も使えます。麹から作るタイプ、つまりアルコールの入っていないほうが良いでしょう。とても美味しいので、あえて薄めて与えると良いでしょう。グルメ化を防ぎます。
EPAとDHAを取り入れる
脂質は身体にとって重要な栄養素ですが、摂りにくく不足しがちな脂質がEPAとDHAです。
現代の犬の食性について(弊社サイトより)
はじめに
日本において「犬は肉食である」という話が半ば常識化しています。
犬の祖先はオオカミだから肉を多く与えるのは当然という考え方です。
その話が広まった平成のあたりから、犬の食事は肉が多くなり、高タンパク化しているように感じます。
ドッグフードだけでなく、ササミを手作りに食の中心とする飼い主さんも目立つようになってきました。
そうした中で、私は高タンパク食の危険性を認識しています。
肉中心の食事がすべての犬に適するわけではないと考えています。
犬の歴史を学ぶほど、そして日々の健康相談を通して、その考えは強固なものになっています。
犬は1万年という長い歴史の中で、数え切れない交配を繰り返し、人と同じか、もしくはもっと質素な食事に最適化されてきた動物です。
けしてオオカミと同じような食事をしてきたわけではありません。
そのお話をします。
50年前の犬の食事
令和のいま、犬は猫とともに最も愛らしいペットと認識されています。
家族の一員であることが常識となり、屋内で飼育することは当たり前です。
ところが50年前の当たり前は異なります。
昭和40年代50年代の犬たちは季節を問わず、昼も夜も庭や玄関先で飼われるのが普通でした。
飼育目的はたいてい用心棒、つまり番犬です。
犬の脱走を防ぐために常時首輪と鎖で繋がれていることは普通でした。
多くの犬は日常的に残飯を与えらていました。
すでにドッグフードが発売されてはいましたが、多くの家は引き続き残飯を与えていました。
残飯の内容は、当時の人の食事に準じます。
その頃の家庭料理は現在と大きく異なっており、3食とも白米で、おかずに肉はあまり使われません。
昭和40年くらいの肉消費量は現在と比べてわずか1/4程度。
お米は今の2倍多く消費しています。
つまり高炭水化物、低タンパク食です。
犬に供される残飯も同じか、さらに肉が取り除かれて野菜くずが足されたようなものでした。
※もちろん例外もあります。
補足「残飯と寿命」
「昔の犬が短命だったのは残飯のせいだ」とする意見は正確とは言えません。
なぜならば他に寿命を大きく下げる理由がいくつもあるためです。
理由の1つはフィラリアです。
屋外飼育で、かつ予防薬が一般的でなかったために、蚊に刺されてフィラリアに感染してしまい、若年で他界する子が多数いました。
なお平均寿命は計算上、若い世代の生存率が大きく影響し、シニア世代の影響は小さくなります。
昔は首輪を外して脱走する子が多くいました。
やはり力のある若い子に多かったと推測できます。
なかには道路で事故にあう子もいました。
他の要素として、気象変化も肉体への負担となったでしょう。
真夏、真冬、台風、大雨、大雪といった気象でも、よほどでない限りは家の中に入れません。
健康なら余裕で耐えると思いますが、体調が悪いときには少しきつかったでしょう。
衛生環境も良くありません。
犬はよく土を掘って休みますが、その近くに自らの糞尿があっても気にしません。
夏は虫が寄ってきます。
食事の一部は土に埋め、しばらくして掘り出します。
土の中で菌まみれとなり一部は腐敗しますが、構わずに食べます。
ちなみに私の家の犬も屋外飼育でした。
ときどき知らない犬が入ってきて、食事を盗み食いしていました。
猫もよく来ていました。
今考えればそうしたことも感染症のリスクを高めていたかもしれません。
現代では信じがたいこれらのことは、ほんの30年前までのありふれた日常です。
当時を知っていれば、短命の理由が残飯であるといった主張にはならないでしょう。
200年前の犬の食事
江戸時代、すでに犬をペットとして飼育する人がいました。
生活に余裕のある身分の高い家では、犬に十分な食事を与え太らせていたようです。
浮世絵の中にはコロコロに太った犬が描かれているものがあります。
一般庶民も犬を飼えたようですが、高貴な家とはかなりの差があったと思います。
当時は子どもの死亡率が高く、家を存続させるために女性は4~5人の子を産む必要がありました。
母も子も栄養を摂らなくてはなりません。
もちろん父も成長した子も、仕事に遊びに肉体をたくさん使い、その分たくさん食べました。
食料にあまり余裕はなかったでしょう。
ある程度の余裕があり犬を養えたとしても、家族を差し置いて犬に肉や魚を与えていたとはとても考えにくいことです。
かなりの低タンパク食で育てられていたことでしょう。
なお飼い犬とは別に野良犬もたくさんいたようです。
子どもたちは犬にまたがったり、追い回したりして遊び、犬もまたそれを楽しんでいたことでしょう。
餌やりは地域で協力していたと思われます。
もちろん子どもたちよりも劣る食事が出されていたでしょう。
補足「生類憐みの令」
生類憐れみの令(しょうるいあわれみのれい)は江戸時代の第五代将軍である綱吉により制定されました。
私も誤解していましたが、この法の適用範囲は広域です。
動物の保護だけではなく、人の捨て子や病人、高齢者を保護するものです。
なお綱吉の死後には廃止されています。
犬猫の扱いのみならず、肉食や魚釣り、虫の殺生にまで適用範囲が及んだために廃止を喜んだ庶民も多かったようです。
3000年前の犬の食事
弥生時代、農耕が始まって人々の生活は安定化します。
食料を野生動物の狩猟や、植物からの採取に頼るのではなく、田んぼや畑で生産できるようになりました。
米や麦、ヒエ、キビ、アワといった穀物、イモ類、豆類が栽培されていたようです。
犬にもそうしたものを与えていたことでしょう。
食料を備蓄する高床式倉庫が建てられたことから、人が集まり村を作っていたこと、またある程度の食料を共有していたのではないかと推測されます。
そうした村がいくつも存在していました。
十分な食料備蓄は、越冬を容易にし、人口を増やして村を強くします。
ですが価値のあるものは盗難の標的となり、村同士の戦争の原因になります。
そこに番犬を飼育する理由があったのだろうと想像します。
夜間の警戒にも適した犬は、きっと人々に安眠をもたらしたことでしょう。
村民になつき、外の人間を威嚇する賢い犬が重宝されたはずです。
人は優秀な犬を交配させ、その系統を引き継がせたでしょう。
頭が良い、目や耳が良い、鼻がきく、声が大きい、頑丈、そうした子を選び、掛け合わせたでしょう。
しかし、どんなに優秀でもオオカミのように肉を必要としていたら養うのが大変です。
穀物で育つ子は喜ばれたことでしょう。
こうした品種改良の中で、犬が犬らしくなっていったと考えられます。
1万年前の犬の食事
縄文時代、このころに犬が誕生したと言われています。
まだ農耕が定着しておらず、人は狩猟や木の実の採取などに頼って食料を確保していました。
オオカミは数が多く、さらに生活圏が人と重なりやすいことから、毎日のように見かける身近な存在だったと思います。
オオカミは群れで行動する動物です。
一匹で獲物を捉えることができないため、もし群れから追い出されてしまえば生きていけません。
追い出されて困りに困ったオオカミは別の群れにアプローチすることもあったでしょう。
ところで人間も集団で行動します。
私の勝手な推測ですが、オオカミからすると人間も群れとして見えていた可能性があります。
最初は距離を取って狩猟の様子を観察していましたが、空腹が限界に達し、思い切って近づいてきたのかもしれません。
近づいて狩られてしまったオオカミもいたでしょうが、なかには受け入れられるケースもあったでしょう。
そして狩猟に連れて行かれたら人間とオオカミによる混成チームの成立です。
人間の賢さとオオカミの高い身体能力が相まって、狩猟の効率が向上しました。
そうした特別なオオカミを人は手放したくありません。
手懐けるために大切な肉を分け与え、オオカミはその報酬に全力で報いました。
しかし寒くなり野生動物たちが冬眠のために巣穴に閉じこもるようになると、狩猟の効率が低下してオオカミに与える肉が不足します。
そのときに人が蓄えていた豆や木の実で冬を乗り切ることができたオオカミがいました。
そのオオカミこそが犬です。
オオカミと犬の違いは簡単に言うことができて、生きるために肉を必要とするか否かです。
逆に言えば炭水化物中心の食事で生きられるのであれば犬です。
肉無しで冬を乗り切ったオオカミが、最初の犬だというのが私の考えです。
生きられるだけでなく、子を産み、母乳を与えることのできた特別なオオカミは、いつからかイエイヌと呼ばれ、ヤマイヌと区別されるようになりました。
その後の1万年間でさらに人の生活に順応し、繁栄の道を歩み現在に至っています。
さいごに
長い文章を読んで頂き有難うございます。
何か役立つことがありましたでしょうか。
もし1つでもあれば幸いです。
人が長い時間をかけて交配し、品種改良してきた犬たちは、祖先であるオオカミとはまったく別の動物となりました。
外観に多少の面影を残しつつも、もはや身体の作りは肉食獣ではなくなり、人と同じような食事を受け入れます。
ペット健康相談を受けていると、ときどき長寿犬の話を聞くことがあります。
1ヶ月で数件という感じです。
前職を合わせれば10年以上です。
私は長寿のコツを知りたくて、とくに食生活には関心があるので、逆に飼い主様からいろいろ教えてもらいます。
すると人寄りの食事を与えられている子が多いことに驚かされます。
正確に言えば、最初の頃は驚きましたが、もう驚きません。
やはりそうか、という感じです。
私は犬に肉を与えなくても寿命をまっとうできると考えています。
ただし肉は美味しいですし、幸せ感に繋がりますから、ゼロにしなくて良いです。
少量を上手に与えることをお勧めします。
短期的に見れば、肉は元気や体力を向上させることも期待できます。
良い表現ではないかもしれませんが、細く長くよりも太く短くといった生き方を選ぶ場合は、おそらく肉をたくさん与えたほうが良いです。
そのうえで、もし肉をたくさん与えていたのに病気になった、病気が治りづらい、なぜだろう?と疑問に思っている飼い主様は、肉の量を減らして様子を見ると良いかもしれません。
ご愛犬にどのような食事が合うのかを、常識を1回リセットして、自分の目で確かめた真実で判断されることをお勧めいたします。