犬の病気はなぜ増えた?食と構造の変化

現代の犬では、腎臓病、肝疾患、膵炎、胆泥症、悪性腫瘍などの罹患率が上昇している。

このうち致死性が高いのは悪性腫瘍に限られるが、慢性疾患としての影響は広範囲に及ぶ。

一方で多くの飼い主は、「昔より長生きしているのだから、今の食事は進歩している」と理解している。

しかし、平均寿命の延伸要因を観察すれば、フィラリア症の予防薬普及と脱走事故の激減が最も大きい。

若年死が減ることは、平均寿命に強く影響することが統計的にも確認されている。

 

かつての犬は、人間の残飯──野菜くずや煮物の副産物、研ぎ汁などを主な食事としていた。

フード設計は存在せず、栄養も測られていなかったが、犬は屋外で暮らし、番犬として働き、繁殖していた。

 

昭和の家庭では、犬も人も質素な食事を共にしていた。

ご飯に味噌汁をかけたもの、漬物や野菜の煮物──ほぼ植物性で構成された食卓だった。

それでも家族は健康を保ち、犬たちも屋外でよく動き、よく吠え、地域の中で自然に暮らしていた。

庭の土を掘って寝床をつくり、犬小屋に出入りしながら、きままに過ごしていた。

当時は、消防車のサイレンや夏の花火に呼応して、遠くの犬たちが次々に遠吠えを返す光景が見られた。

当時の粗食が寿命を縮めたという記録も、医学的な裏付けも見られない。

 

平成後期には、カンガルー肉がドッグフード市場に登場した。

人間向けに輸入されたが定着せず、在庫処理としてペット市場へ転用されたと考えることができる。

このとき同時に広まったのが、「犬はオオカミの子孫であり、肉を食べるのが自然」「穀物は不要」といった構図である。

この信念が制度的に意図されたものであるかは不明だが、肉食信仰の定着に影響を与えた可能性はある。

 

その後、鹿肉や鶏ささみなどが「健康食材」として順に導入された。

それらのうちいくつかは、余剰資源の出口として選ばれた側面があると見ることもできる。

「高タンパク・低脂肪・アレルゲンに優しい」といった言説と共に、それらは定着していった。

 

以降、腎不全、膵炎、肝障害、胆泥症、行動異常などの疾患が犬の間で一般化した。

だが、これらの変化は主に老化や遺伝的要因とされ、急激な肉食シフトとの因果関係は、体系的に検証されていない。

 

「食によって誘発される疾患」が生活習慣病であるならば、

これらもまた、“制度的に設計された栄養”によって生じた病態と捉えることができる。

腸内環境の変化、慢性炎症、代謝的ストレス──その背景にあるのが食習慣の変容そのものである可能性は高い。

 

数万年にわたり犬が適応してきたのは、粗食や植物性を中心とした人間の副食物であり、

それらに含まれる発酵物・繊維・微生物との共生関係であった。

かつての腸内とのバランスが失われたことと、これらの病気の増加は、無関係ではないように見える。

 

犬の歴史と一致しない現在の過度な肉食が、腸内バランスを崩し、

病気の増加に関与しているというこの推論は、仮説ではあるが高い合理性を持つ。

実際、犬の数がこの15年間でおよそ半減した一方で、動物病院の数はむしろ増加している。

この事実は、病気の発生頻度が減っていないどころか、制度全体がそれを前提として動いていることを示唆する。

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