健康情報が増えたにもかかわらず、犬や猫の病気は一向に減らない。
その理由はいくつかあるが、ここでは「非科学的な理屈が“常識”として広まっている」点に焦点をあてて話を進める。もちろん、すべての健康情報を否定するわけではない。
まず確認しておくべきは、ネット上の情報には、ほぼ例外なく「目的」があるという事実だ。
逆に言えば、多くの情報は最初に“目的”があり、それに沿う形で文章が構成されている。その目的とは、言うまでもなくビジネスである。
こうした情報作成のための手引書は、市販・配布されており、私も読んだことがある。
そこには、人に商品やサービスを受けたくさせるための文章構成、写真配置、ボタンの色と形といった、ウェブページの設計書が記されていた。どこにも「誠実に正確な情報を届ける」姿勢は見当たらない。
語られているのは、「必要のないものを、どうやって必要に見せかけて売るか」という技術である。
そして多くのネットライターや副業ブロガーは、そうしたテンプレートに従って記事を量産している。
彼らが注力しているのは、医学や動物学の学習ではなく、ネット戦略の最新トレンドである。彼らの目的は、病気を減らすことではなく、アクセスを増やすことだ。
そんな情報を飼い主たちは“教材”として使い、ペットの健康を守ろうとする。
だが現実には、ペットの病気は増え続けており、飼育費に占める医療費の割合は年々増加している。
それは果たして「本物の知識」だろうか。
その記事は、確率的に稀な方へ読者の注意を誘導してはいないか?
誇張と不安の煽動、そして誘導──それは現代のネット記事の基本構造であり、ペットの健康情報ではとくに顕著である。
たとえば、首のリンパが腫れているとする。実際のところ、そのほとんどは一過性の感染症による反応にすぎない。
しかし、動物病院のホームページなどで「まれにリンパ腫の可能性がある」と紹介されると、それがコピーされ、責任を持たない記事が量産される。
その結果、同じ情報が多数出回り、飼い主の多くは「多数決で正しい」と錯覚してしまう。
「リンパ腫では首の腫れが見られることがある」は正しい。
だが「首の腫れ=リンパ腫の症状」となると、因果を逆転させた飛躍理論である。
想像の中で病気が構築され、疑いが確定にすり替わる。
ざっくりではあるが、これが健康情報が増えても病気が減らない原因のひとつだと考えられる。
さらに言えば、テレビやネットには科学的に間違った情報も少なくなく、それがコピペによって再生産され、いつの間にか“常識”化している。私から言わせれば科学の冒涜である。
それを真実だと思い込んだまま健康管理に用いれば、病気が減るどころか、増えていくのは当然である。
むしろ、これこそが最大の原因ではないかと私は考えている。