熱中症になる犬、ならない犬

犬は暑さに弱い──そう言われることが多い。確かに、人よりも発汗機能が限定されており、体温調整は呼吸や足の裏の汗腺に頼るため、構造的に暑さに不利であることは事実だ。

だが、現実にはまったく同じような環境で暮らしていても、熱中症になる犬とならない犬がいる。 この違いはどこからくるのか。

一般的な答えは温度管理となるだろうが、それは重要な点を見逃している。
より本質的な答えは、“その子が暑さに強いかどうか”である。

暑さに強い犬は、普段から高温環境に適応している。人間と同じで、暑さにさらされ続けることで熱順化(暑さへの適応)が起こる。逆に、常に冷房が効いた涼しい環境にいる犬は、わずかな温度上昇でも体温調整がうまくいかず、熱中症になりやすくなる。

では冷房は悪いのか? そうではない。高齢になればなるほど、また呼吸器系の持病を抱える個体などは事実としてやはり暑さに弱く、冷房による管理が必要なケースもある。ただし、「全ての犬に25℃前後が快適」という話をそのまま信じて、過保護な環境を作ることが、逆にその子の適応力を損なっている可能性はある。

一般常識「25度以上は熱中症のリスク」

事実「気温上昇に適応できない子は熱中症になりやすい」

ホメオタシス(恒常性)というものがある。どんな環境でも体の調整で乗り切ろうとする、すべての動物に備わった仕組みであり、健康維持の中核を担うものだ。ホメオタシスは鍛えることで強化される。
軽い暑さに晒されるだけでも、呼吸のタイミングや血流の調整が学習され、次第に暑さへの反応が上手になる。

時代とともに環境に適応する体づくりよりも、環境を快適にすることに我々の思考はシフトしてきた。それをわかりやすく明示しているのが熱中症と言えるかもしれない。

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