糖質制限は、2010年頃に一部の医療関係者から広まり始めた考え方である。当初は主に糖尿病に対する有効性を主張していた話が、現在は健康管理のベースにしたり、ペットにまで導入する飼い主がいる。
「糖質はがんの餌」という単純明快なキャッチコピーがウケ、メリットばかりが強調されるものの、リスクについていはほぼ語られていない。
まず「がん細胞が糖を好む=糖を断てばがんが治る」は誤った因果関係のすり替えと言える。がん細胞は正常細胞よりも糖を多く消費する(ワールブルグ効果)。しかしそれは糖が原因ではなく、がん細胞がエネルギー供給を必要とするからであり、糖を断ったところで正常細胞まで損なわれる。さらに重要なのは、肝臓は糖新生によって体内で糖を作るという事実。たとえ外から糖質を摂取しなくても、がん細胞は体内で生成される糖を利用するため、完全な断糖には意味がないどころか、健康な組織の機能低下を招くリスクもある。がんに対する防御システム「免疫」にも支障をきたしかねない。
糖質制限の実際は、多くの場合で炭水化物抜きとなっている。その分をタンパク質で補う場合が多いが、そうした食生活は腸内環境を大きく乱し、健康寿命の低下リスクを内包している。腸内環境が身体や精神に与える影響は研究によって明らかにされてきている。闇雲に広がってきた糖質制限と近年の医療費の増加には、同期性のような相関関係のような、無関係とは言い切れない構造的な一致が見られる。