「脂は体に悪い」この言葉を一度も聞いたことがない人はいないだろう。だが脂質を一括して悪と見なす考え方は、洗脳に似た固定観念であり、科学的には否定される。
脂質は単なるカロリー源ではない。細胞膜の素材であり、ホルモンの前駆体であり、脳と神経の構成要素である。さらにビタミンA・D・E・Kといった脂溶性ビタミンの吸収を担う、極めて重要な存在だ。
低脂質食が長期化すると、免疫力の低下・炎症制御の不全・ホルモンバランスの乱れというリスクが生じる。しかしながら近年は脂質5%程度の低脂質フードが流行し、手作り食に至っては徹底的に脂質を取り除くことが正しいと信じられている。
犬においては低脂質食の弊害は、比較的わかりやすく現れる。胆泥である。胆泥の元となる胆汁は、食事中の脂質を吸収する目的で腸内に排出される。脂質を減らせば減らすほど胆汁は出なくなってくる。生理的にも当然と言えるこの自然のメカニズムに、多くの飼い主は気付いていない。むしろ胆泥になると低脂質化を強化し、悪化させているケースを多々見ている。
脂質はハイカロリーであるために肥満と結びつけられることも多いが、そもそも肥満の原因は消費カロリーに見合わない過食である。脂質を問題視したり栄養バランスで解決しようとする対策は、本質からズレてしまっている。