長寿者の食生活を研究する中で、驚くべきことに「理想的な栄養バランス」などというものは、実際のところあまり見受けられない。むしろ共通しているのは、「今ある食事に深く感謝している」という姿勢である。
現代のように、健康や栄養に関する情報が氾濫していなかった時代、多くの高齢者たちは戦中戦後の貧しい食生活を経験し、それでも生き延びてきた。理想的な栄養バランスどころか、芋などの根菜類、ときには野草のような植物を食べることもあっただろう。時期によっては米も十分だったとは言えない。いずれにしても現代人に比べて超低タンパク食であった。
「いただきます」という言葉は、もはや形式的な儀式として扱われがちだが、超高齢者にとっては、食材の命、料理を作る手間、日々食事が得られることそのものに対する心からの感謝を意味している。つまり、彼らの「いただきます」は、言葉の本来の意味であり、感謝の言葉として機能している。これは明確に、健康維持に影響するメンタル面の強さの一端である。
実際、超高齢者の中には、医学的には推奨されないとされるようなものを好んで摂取している例がいくつもある。世界最高齢となった田中カ子さんは毎日コーラを愛飲し、泉重千代さんは黒糖焼酎を好んだ。きんさんぎんさんのきんさんは、寝る前にチオビタドリンクを飲んでいたという逸話も残っている。
こうした食品が長寿の直接要因であるとは言えないが、共通しているのは「それを摂取することが自分にとっての活力である」という確信を持っていたことだ。「これがわしの健康の秘訣だ」と笑顔で語ること自体が、免疫や神経系に作用し、寿命延長に貢献していた可能性がある。
現代では「高齢者はしっかりタンパク質を摂取しているべき」といった言説が広まっている。だが中身を見れば、「豆腐をしっかり食べている」といった程度のことが「タンパク質をしっかり摂取している」と解釈されている場合もある。水分を多く含む豆腐を大量に食べているだけで、栄養的に十分かといえば疑問が残る。
要するに、「長寿の秘訣」は栄養バランスの最適化ではなく、「感謝する心」と「自分の生きがいを信じる力」にこそあるのかもしれない。栄養学において重視される数字では捉えきれない、人間の生存における“見えない力”の存在を、長寿者たちは身をもって証明している。