ここ数年、犬の食事に関して「高タンパク・低炭水化物」が理想的という言説が広まり、実際に市販のフードや手作り食にもこの傾向が強くなっている。しかし、現場では肝臓病・腎臓病・膵炎・慢性腸炎など、臓器トラブルを抱えた犬の相談が急増している。果たして本当に“肉が多ければ健康”なのか。
タンパク質は体に不可欠な栄養素であることは間違いない。しかし、それは「多ければ多いほど良い」という単純な話ではない。肝臓や腎臓にとって、過剰なタンパク質の代謝と排泄は大きな負担となる。さらに考えるべきなのは、食事から炭水化物が減ることで、腸内環境が深刻に悪化する可能性である。
腸内の善玉菌は主に炭水化物、特に食物繊維や難消化性デンプンをエネルギー源としている。これが不足すると、ビフィズス菌などが減少し、腸内で悪玉菌や日和見菌が優位になる。結果、炎症性サイトカインが発生し、リーキーガット(腸管バリアの破綻)を引き起こす。
リーキーガットによる慢性炎症は、あらゆる疾患と接続する。心臓病、膵炎、腸炎、皮膚炎、がん、膀胱炎──さらには脳腸相関によって、うつ症状や認知機能低下すら誘発する可能性がある。これらはすべて、「腸内環境が壊れたことで始まった病気」であり、そのきっかけが“高タンパク・低炭水化物食”であった可能性を否定できない。
もちろん、タンパク質20%という数値は絶対ではない。犬の年齢や活動量、個体差によって必要量は変わる。しかし、長期にわたって30%を超えるような高タンパク食を与えるリスクは、肝臓・腎臓・腸を中心に無視できない。20%前後という数値は、「臓器保護」「腸内環境維持」「全身炎症の抑制」という観点から、十分に科学的根拠のある設計と言える。
参考記事:「犬は肉食寄りの雑食」は、誤りだろう
「犬は肉食だから」というシンプルなイメージが、一体どこから来たのか。進化の過程を見れば、犬は人とともに雑食へと適応してきた。犬の健康を守るとは、祖先を模倣することではなく、現代の体と環境に最も適した栄養を選ぶことである。ブームに惑わされず、冷静な視点で食事を設計していきたい。