腎臓の負担になりえる徹底した塩分制限

「塩分は控えめに」という助言は、人のみならずペットの健康管理の常識として広く浸透している。しかし、この常識をそのまま鵜呑みにすると逆に腎臓への負荷を高めてしまうという逆説が存在する。説というよりも体の仕組みがそうなっている。

ナトリウム(塩分)は、ナトリウムは尿生成そのものにおいて“能動的輸送の駆動力”である。不足時には別の駆動系が動員されるのだが、この過程はエネルギーを要し、腎臓の糸球体や尿細管に継続的な負荷をかける。

つまり「減塩=腎臓に優しい」という単純化は、こうした代償機構の存在を見落としがちである。

腎臓病が疑われる犬において、「減塩療法食」が選択される場面は多いが、すべての段階において必ずしも正当とは限らない。無思考にナトリウムを除去することがかえって水分代謝を乱し、脱水や代謝性アシドーシスの一因となる場合すらある。

さらに、ナトリウム不足は飲水量の低下を招きやすく、尿量の減少と濃縮尿の生成につながる。
この状態は腎臓への濃度ストレスを高めるだけでなく、尿が長時間体内に留まることで尿路感染症のリスクも上昇する。
塩分の過不足は単なる「血圧」や「腎機能」だけではなく、身体の広範な恒常性維持に影響する因子であることを理解すべきだ。

腎臓を守るために塩分を控える。その意図自体は理解できる。
だが、身体は“水と塩のバランス”によって恒常性を維持している。
ナトリウムは敵ではなく、むしろ生命維持の中核であり、不足は致命的ですらある。

本稿の立場は、“減塩否定”ではなく“ナトリウムの再評価”である。
ナトリウムの役割を正しく再評価し、腎臓だけでなく全身の健康を同時に守る視点を持つこと──それが本当に“やさしいケア”である。

また極端な減塩食が食事の美味しさを低下させ、ストレス増加の原因となる可能性についても配慮して欲しい。ストレスは腎臓病の明らかな要因のひとつである。

なお、腎不全の治療においてしばしば用いられる点滴の主成分は、実際には“生理食塩水”であり、いわば塩水である。
この「塩分を制限しながら塩を点滴で補う」という構造的矛盾にも、ぜひ目を向けてほしい。

「点滴ビジネス」にご用心

塩水は塩分欠乏気味のペットにとってまさに命の水である。

 

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