「犬に納豆?」と驚かれることがあるが、私は10年以上にわたり、ひきわり納豆を犬の健康管理に取り入れるよう提案してきた。そして実際、多くの疾患に対して一定の手応えを感じている。
対象となる疾患は幅広い。肝臓病、胆泥症、腎臓病、がん、心臓病、皮膚病——いずれも根底には「慢性炎症」や「腸内環境の悪化」があるケースが多い。納豆は、それらを直接治す“薬”ではないが、腸内の状態を変えることで、身体全体に波及する効果をもたらす“環境”であると捉えている。
中でも“ひきわり納豆”にこだわるのは理由がある。普通の納豆とは発酵の進み方が異なり、風味や成分にも違いが出る。消化にも優れるだろうが、それは本質的な理由ではない。
よく誤解されるが、納豆の効果は「ナットウキナーゼ」や「納豆菌」だけで説明できるものではない。むしろ、ネバネバの中にある多種多様な微生物代謝産物の、複雑な相互作用——それが効果の本質なのだと私は考えている。
与える分量は、体重1kgあたり1g/日が基本目安。5kgの犬であれば5g(小さじ1杯程度)になる。もっと欲しがる犬猫がいるが、その場合は3倍程度まで増やしても良いと伝えている。ただし、多すぎると便がゆるくなるケースがあるため、その際は減量をすすめている。
納豆嫌いだと決めつけてしまう飼い主もいる。だが、初日は容器の縁に一粒だけ。あるいは指先で鼻先にちょんとつける。そうした「文化的導入」によって、少しずつ慣れてくれることも多い。アメリカ人にいきなり納豆を食べさせるのが難しいように、犬にも“順応の段階”が必要なのだ。
個人的な見解だが、納豆は“発酵食”としてだけでなく、糞食の代替としての側面もあると考えている。犬は、食糧事情が悪かった時代に糞食を常食としていた可能性が高い。糞は食品ではないが、私の中では「発酵食品」と同じカテゴリに位置づけている。納豆のような多様な微生物環境を持つ食品は、その代用になりうる。
なぜ納豆が効くのか? それを一成分で語ることはできない。私自身、発酵食品と日本人の長寿との関係、犬に与えた際の体感的な好転、そして喜んで食べる個体の多さ——そうした少し大雑把な理由で勧めている側面もある。
だからこそ大切なのは、「納豆によって体内で何が起きているのか」を観察し続けることだ。元気さ、便の様子、検査値の変化——それらを見守る視点が必要だ。納豆は薬ではない。だが、文化であり、環境であり、進化的適応のツールであると捉えたとき、それは薬以上の健康アイテムになり得る。もちろん健康なペットにも与え、できるだけ病院のお世話にならないという目的のために続けて欲しい。
ちなみに乾燥納豆はなぜかあまり良い感触を得ていない。タレや麺つゆを一滴して美味しくすること、鰹節やすり胡麻による味チェンジは、許容するどころかむしろ勧めている。
ひきわり納豆の1日目安量:体重1kgあたり1g